下書き
2限目の授業が終わって眠かったので机の上に伏せていると、肩をトントンとつつかれた。顔を上げると、肥川さんがいた。
「ごめん、この前頼むときに部誌は白黒印刷で頼むから色は付けないでって言うのを忘れてた」
元々声が大きい方ではないけれど、気を使っているからかものすごく小さい声だった。
「あぁ、それなんだけどね……」
鞄の中に入れたクリアファイルを探す。
実は水無瀬さんの動画の絵を描くために慣れていないペンタブを使ってミクを描く前に、とりあえずミクをアナログで描いてみようと思った。その練習で描くミクとしてちょうど肥川さんに描いてと言われたポーズを描いてみたものがあった。
せっかくなので何かのタイミングで肥川さんに見せてみようと思っていたところだった。
「え、もしかしてもう描いてくれたの?」
「とりあえず、下書き程度できちんとしたものじゃないけど描いてみた。構図とかポーズとかダメならやり直すから後で見て」
絵の入った柄物のクリアファイルを肥川さんに渡した。
肥川さんと話している間になんだか視線を感じたので、その方向を見ると清水さんがこちらを見ていた。
清水さんは相変わらず、僕のことを見てくる。というか、以前よりも視線を感じることが多くなった気がする。例えば化学の実験中とか、昼休みとか、今までは授業中の教室でしか感じなかった視線が、授業中以外にも視線を感じるようになったのだ。
水無瀬さんがあのノートの持ち主だったとわかった今、また清水さんが僕の事を見てくる理由がわからなくなってしまった。一度、ノートのことがあったから見てくるんだと納得した後なので、理由が気になって仕方がない。
やはり何か別の理由があるんだろう。
水無瀬さんに聞いてみたら何か知っているかもしれないと思ったけれど、変な勘違いをさせてしまうような気もしないでもないので、やめておいた。
その後、3限目の終わりにまた肥川さんが僕のところに来た。授業中に絵を見たのだろう。
「三善くん、これでいい。このまま本描きして」
どうやら大丈夫なようで一安心だ。
「ところで、クリアファイルごとこの下書きちょっと借りてもいい? 一緒に中心になって作ってくれる人にも一応こんな感じで表紙はお願いしてるってことを伝えたい」
「別に構わないけど……」
もしかして肥川さんは他の人にはどういう表紙にしようか言っていないのだろうか。まぁ言葉で説明してないなら、さすがに肥川さんが描いたアレを見せるのは恥ずかしいか。
クリアファイルは返してくれるなら特に問題はない。
「じゃあお言葉に甘えて借りるね。描いてくれてありがとう。これで先輩たちにいいものが渡せそう。三善くんに頼んでよかった」
一度自分の席に戻って鞄の中にクリアファイルをしまった肥川さんが、もう一度僕のところに来た。
「あ、一応約束通り他の人に聞かれたら、友達のお兄さんに描いてもらったって言っとく」
僕はまだなんだか眠かったので、肥川さんに向かって親指を立ててからまた机に伏せて寝た。
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