ライブ

 駅前に着くと既に晃が待ち合わせの場所で待っていた。珍しく余所行きのきちんとした格好をしていた。


 今日は竹内の所属している軽音楽部が他校の軽音楽部と合同でライブをするということなので、竹内に誘われて晃と一緒に聞きに行くことになっていた。

 前回やったライブは誘われたけれど、ちょうど家の用事で行けなかったので、竹内がライブで演奏するのを聞くのは初めてだった。


 晃がこういうイベントに参加するのは珍しい。

 どうやら、竹内にかなり熱心に誘われたようだ。普段なら来ないだろうけれど、何やら晃が面白いと思うような曲をやると言われて来たそうだ。


 主に一年生が主体になっているバンド同士でのライブと言うことで、バンド数自体は少ないようだ。


 入り口でドリンク代の500円を入って会場に入ると、中は薄暗かった。カウンターでコーラとドリンクチケットを引き換えてライブハウスの中を見回すと、うちのクラスの人も結構いるみたいで、顔見知りがちらほらと見える。

 高校生だと思われる若い人ばかりだったけれど、ちらほらと大人もいるようだ。出演者の親御さん達だろうか。


 開演の時間になった頃には満員とは言えないけれど、会場はそれなりに人で溢れていた。

 最初のバンドの演奏が始まった。


 うちの学校ではなくて他の学校のバンドみたいだ。初めてライブハウスで聴くから音のデカさに圧倒されてしまった。体が揺れているんじゃないかと感じるくらいにガンガンと音が響いている。


「今日唯一のガールズバンド、『マリンスノ―』です」


 最初のバンドが終わり次のバンドが紹介された。ガールズバンドなのを強調するためなのか、全員がおそろいの服を着ていた。こういうのは女の子らしいと思った。

 竹内から聞かされていたけれど、うちの学校のバンドだ。


 ドラムをやっているのはうちのクラスの佐々木さんだ。佐々木さんはノリノリでドラムを叩いている。そこまで体格がいいわけではなく、普段はどちらかと言って華奢な方に見えるのに、とてもパワフルだ。


「けいおんみたいだなぁ」


 晃が隣で嬉しそうにぼそっとつぶやいた。

 けいおんと言うのは、最近流行っていたその名の通り『けいおん!』というアニメだ。4人の女の子たちが廃部寸前の軽音楽部に入ってバンドをしていく様をコミカルに描いた漫画が原作のアニメだ。もしかしたら軽音楽部にはこの漫画の影響でバンドをやりたいと思った人もいるかもしれない。


 前のほうに清水さんがいるのがたまたま見えた。どうやらクラスの他の女の子たちと来ているらしい。その中にはなんと肥川さんもいた。肥川さんがこういう騒がしいライブハウスにいるのはなんだかイメージに合わない気がした。同じクラスの佐々木さんが出ているので来ていても全然不思議ではないのだけれど。


「私たちの最後の曲です」


 と言うと、まさにやったのは『けいおん!』のエンディングの曲だった。ガールズバンドのカッコよさを出した曲だったので、会場は盛り上がった。

 その後にも他の学校のバンドの演奏があった。


「おっ」


 晃がやけに嬉しそうに反応したので、何かと思って聞いていると、聞き覚えのあるメロディーが流れてきた。


 メルトだ。


 人が歌っているのは初めて聞いたけれど、本当にバンドのために書かれた曲のように思えた。

 これは確かに流行るはずだ。だけれど、やはり他の有名なバンドの曲よりは「メルト」を知らない人が多いからか盛り上がりに欠けていたのが残念だった。


「ボーカロイド曲のメルトをカバーさせていただきました! この曲はあまり有名ではないかもしれないけれど、私の大好きな曲です。よかったら原曲も探して聞いてみてください」


 とボーカルの人が言うと拍手が起こった。


 そんなこんなでライブを楽しんでいたら、いつの間にか最後のバンドになっていたらしい。


「というわけでね、最後のバンドは皆さんお待ちかね、今回のこのライブの企画をして、会場の用意とか色々と中心となって準備をしてくれた主宰がいるバンド『ザ・グラビティー』です。ありがとうー」


 そう言われて出てきたのは、竹内のバンドだった。このライブを企画したのが竹内だということは知らなかったけれど、確かに竹内ならやりそうだなと思った。


 竹内の歌声を初めて聞いたけれど、かなり上手かった。特に高音の響かせ方がすごく綺麗で濁りのない真のある歌い方だった。


 2曲目の途中でメンバー紹介が始まった。ドラム、ベース、キーボードと順にそれぞれ紹介されてソロパフォーマンスをしていく。


「そして最後に、ギターアンドボーカル・ショー!」


 竹内が紹介されて、キャーと言う今日一番の黄色い歓声が上がった。竹内の本名は翔太だけれど、バンドのコンセプトに合わせてショーと名乗っているらしい。話には聞いていたけれど、竹内は人気のようだ。

 竹内のソロパフォーマンスが終わるともう一度大きな歓声が上がった。

 最後はテンポの速いノリノリの曲で会場は大きく盛り上がった。最後の一音は会場全員で飛んで終わった。


 ライブハウスに行くのは初めてだったけれど、なかなか楽しめた。ただ、音量が大きすぎて頭がガンガンしたからか、会場を出てもなんだか頭が痛かった。


「いやーやっぱりメルトは人が歌っても最高だよなー」


 帰り道、晃は満足そうに言った。竹内が晃を誘った文句はたぶんこれだったんだろう。


「そういえば、あれから結構ボカロ聴いてるらしいじゃん」


「晃が教えてくれた『雛鳥は青い空の夢を見る』って曲がずっと頭から離れなくてね。初音ミクの曲もっと聞きくなったから色々と聴いてる」


「おおーそれはいい曲との出会いをしたねぇ。それはボカロにハマってる証拠だな。じゃーあの曲は聞かなきゃ損だぞ」


 晃はいくつか僕が聴いたことのないミクの曲を教えてくれた。別れるまでずっとミクの話をしていたけれど、晃はミクの話ができて嬉しそうだった。

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