体育祭

「三善くんも体育祭の打ち上げ行こうよー」


「女子はほとんど参加してくれるんだけどさー男子の参加率がいまいち低いんだよね。だからもし来れるならせっかくだから来てよ」


「えっとー……」


 朝、教室に入って自分の席に着くと、待ち構えていたかのようにクラスの女の子二人が、僕に話しかけてきた。1か月前ぐらいにやった体育祭の打ち上げが来週の土曜日にあるのだ。僕はクラスの大勢の人たちと学校の外で遊ぶのはなんだか嫌だったので、行けないと返事をしていた。


「もうこのクラスで集まってできるイベントってほとんどないんだよね。文化祭も体育祭も終わっちゃったわけだし」


「そうそう、それなのに来ないなんてもったいないじゃん」


「あ、あのさ……悪いけど、連絡した通り行けなくて……」


「えーっ。それにさ、ほら、普段話さない女子とも話す機会ができて仲良くなれるかもしれないじゃん。こんな素敵なイベントなかなかないよ?」


 断ろうとしてもなかなか二人とも引いてくれそうにはなかった。本当に僕に心の底から参加してほしいなんてことはきっと思ってはいないだろうけれど、どうしてそこまでこだわるのだろう。


「なんだよ、三善こないの? てっきり来ると思ってたのに」


 話を聞いていたのか、斜め後ろの席に座っていた竹内が立ち上がって、話に参加してきた。


「竹内は行くのか。確か来週の土曜日だよね、ごめん、その日は既に予定があるから……」


「そっかー。でも俺もバンドの練習あったんだけど、強引に練習を別の日に変えてもらったんだよね。三善は予定の日付変えられないの?」


「うーん……どうだろう」


「ま、無理に予定を変えて支障が出るんだったらやらないほうがいいけどな。でもこんな機会はあんまりないから、俺はいつでもできる練習よりもこっちを優先しただけだな」


「何の予定かは知らないけどさ、このクラスでできる体育祭の打ち上げはこの一回しかないんだよー。三善くんも参加しようよ」


「一生に一回だよ!?これを逃したらもう出来ないんだよ? 」


 竹内の言葉に、女の子たちがうんうんと頷きながら、攻めてくる。

 どうやったらあきらめてくれるかなぁ、と困ってそこらへんに目線を泳がせていると、清水さんがちらちらとこちらの様子をうかがっているのが見えた。

 僕が女の子二人と何を話しているかが気になるのだろうか。清水さんは僕の視線に気が付いたのか、僕と目が合った。

 けれどいつも通り、すぐに視線をそらされた。


「一応別の日にできないか聞いてみるよ……」


 思いついたのは、曖昧にして誤魔化す方法だった。これなら、とりあえずこの場を乗り切れるし、行かなくても済む。


「来れるってなったら早めに言ってね。予約しているお店の人数の調整しなきゃいけないし。待ってるからね!」


「絶対来てね」


 結局二人とも最後まで引き下がろうとはしなかった。せっかくならクラス全員でやりたいという気持ちもわからないでもないけれど、そこまで必死になることもないと思うんだけれど。それに、途中で会話に参加して女の子の味方をしていた竹内はいつの間にかどこかに行ってしまっているし、いったいなんだっていうんだろう。


 女の子二人は、また別の男の子に声をかけていた。来ない人全員に対してやるのだろうか。 


「ねぇ、えり。打ち上げ行けるかわからないって言ってたけど、私はやっぱり行けそう」


「ほんとにっ!美咲は来てくれるって信じてたよっ、ありがとう」


「あ、でも残念だけど和音はやっぱりいけないって。なんかその日はどうしても外せない用事があるとかで……」


 清水さんが結構大きな声で先ほどの二人に話しかけていた。どうやら清水さんは打ち上げに参加するらしい。


 ふとさっきの女の子の言葉を思い出してたけれど、打ち上げに行けば、清水さんと話ができる機会があるかもしれない。楽しい雰囲気の時に聞けば、もしかしたら理由を教えてくれるかもしれない。


 いや、でもやっぱり僕は女の子たちと一緒に遊ぼうという気にはならない。どうせ気まずくなるに決まってる。やはり行くのはやめておこう。

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