映像研究部
うちの高校は、授業をする教室がある校舎とは別に敷地内に建物があり、そこが部室棟になっている。基本的にはすべての部活が部室を持っていて、文化系の部活は吹奏楽部など特殊な部活を除いて部室が主な活動場所になっている。
部室棟の一階は、部員数が多く、活動が活発な部活が入っており賑やかだ。部屋も広い部屋が多い。それに比べて二階は小さな部屋がたくさんあって、部員数も活動も少ない部活が入っており、人の出入りも少なく、静かだ。なんとなく一階よりも建物自体もさびれている気がする。
僕の入っている映像研究部は、二階の一番奥にひっそりとある。部室の前まで行くと、部屋が暗くなっており、薄く光が窓から漏れていた。どうやら、何かを上映しているようだ。一応映像研究部と言うほどだから、プロジェクターとスクリーンが置いてあって、それで映像を見ることができるようになっている。
スクリーンには軍人らしき人達が派手に銃撃戦をしている場面が映っていた。戦場で戦っているというわけではなく、町の中で戦っているようだった。薄暗い部室の中を見渡すと、一樹が一人だけ胡坐をかいて座っていた。
「あれ? 今日は演劇部の練習じゃなかったの?」
声をかけると一樹は持っていたリモコンで映像を止めた。
「あぁ、練習ね。今日は演者の一人が風邪で休んでるからって中止になったんだよ。こっちに来たら誰もいなかったから、好きに使ってた」
「そうなんだ。最近寒いし、風邪も流行ってきてるもんね。ところで、何を見てるの?」
「あーこれね、海外ドラマの24だよー。この作品の主人公なんだけど、ジャックバウアーって聞いたことない?」
「あるよ。へーこれがあの24なんだ。色んなところで面白いって話を聞くからちょっと興味があったんだよなぁ」
「おー知ってたか。まぁテレビとかでも取り上げられているから知っててもおかしくないよね。
24ってさ、伏線が巧妙に張り巡らされている優秀なドラマみたいに言われているんだけれど、実際は伏線なんてそこまでなくて、いかに大胆なことができるかってことで優秀なんだよね」
「大胆なことって?」
「んーそうだな、例えばこいつは死なないだろうなっていう人物があっさり死んだり、主人公たちが防ごうとしたテロ組織の作戦が寸前のところで間に合わなくて成功しちゃったりしちゃうんだよ。
ためらわずに物語を思い切った方向に展開するってのは、面白さの秘訣の一つなんだよね。だから、続きが気になって見るのをやめられないなんて言われてるんだよね」
「え、でもテロ組織の作戦が成功する物語とか大丈夫なの?」
「まぁ普通は駄目だよなぁ。普通に考えてテロ対策組織の人間が主人公の物語なのに、テロリスト側の作戦が成功するなんて誰も思わないし。
でもそれができるってのはさ、実はその作戦が敵の大きな計画の一部でしかなくて、その大きな計画を阻止することこそが本来の物語の目的だったりするからなんだよねぇ。
被害は出たけど、大きな被害は免れたから大丈夫って感じになるわけ。そこらへんの脚本はよく練られていると思う」
なるほど、確かにそれは面白そうだ。何よりたくさんのドラマを見てきた一樹がここまで褒めているんだから、実際面白いのだろう。
「なんて言ったってやっぱり、海外ドラマは日本のドラマとスケールが違うよね。あっちのドラマは予算の掛け方が違うからね。映画みたいに見ごたえのあるアクションシーンが作れちゃう。多分海外ドラマ一本の予算で日本のドラマが平気で何本も作れちゃうよ」
「そうだよねぇ。日本のドラマはなんか予算がないからなのかアクションものは見てられないくらいしょぼいもん」
「でもそれはきっとドラマの制作側もわかってるよ。だから、そういうドラマよりも登場人物の心情に焦点を当てたドラマが日本は多いんだよ。そういうドラマに関してはクオリティが高いものもすごく多いと思う。それにね、その代わりに日本はアニメが発達しているよね。
アニメだったら、スケールのでかい事しようが、小さい事しようがかかる予算はそこまで変わらないからね。さらに言えば、映像ではないけど、日本はどの国よりも漫画の文化が発達しているよね。映像に掛けては世界一の、あのハリウッドが日本の漫画を基にして映画を製作するぐらいだから、日本の物語も実はすごいんだよ」
物語について語っている時の一樹はどんな時よりも生き生きとして饒舌になる。なかなか話が止まらない。一樹は映像研究部だけでなく、文芸部と演劇部にも入っているというある意味で本格派だ。本当に物語が好きなんだなと思う。
映像研究部にはもうほとんど来ない三年生が4人と二年生の先輩が3人、一年生が僕を含めて4人だ。週に一回の映像観賞とその後の評論会以外には特に決まった活動はない、比較的緩い部活だ。
一樹みたいにほかの部活と兼部している人もいる。後は映画のチケット代が安くなる毎月1日の映画の日に、映画を見に行くことだろうか。
映画館に行く時は、映画が好きな顧問の先生も引率という名目で一緒に見に行く。映画を見終わった後はもちろん喫茶店やファストフード店に入り、感想を述べ合ったり、批評したりする。
僕が映像研究部に入ったのは、一樹がいるということもあったけれど、漫画に必要な物語について学びたいと思ったからだ。僕に圧倒的に足りないものは、ストーリーの構成力だった。絵にはある程度の自信があったが、話を作る力は全くと言っていいほどなかったのだ。
だから、たくさん物語を見て、他の人と物語について話し合う事で、話を作る力をつけたかったのだ。それにせっかく高校生になったのに、何の部活にも入らないでいるのはもったいないと思った。
実際、この部活に入ってよかったと思っている。そうでなければ、ずっと見ないままだったような名作映画にも出会えたし、人生で初めての先輩ができて、同学年の人とではできないような体験もたくさんできたからだ。
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