第9話 私が貴方のデートプランを考えます!

 二日後。


 楓ちゃんからは、あまりlineがこない。

こういうもんなのだろうか。一日の終わりに、『おやすみなさい』だけくるから、『おやすみ』って返す。ただそれだけ。


 学校では、二人で話そうとか、言われない。まあ、毎日言われたら、それもそれで面倒だが。でも俺としては、もう少し俺のテリトリーに入ってきても、いいと思ってしまう。


「名城」


 俺が教室でぼんやりスマホをいじっていると、金沢が話しかけてきた。

相変わらず、コイツは偉そうで、ツン、と表情は澄ましている。


「あ……なんだ?」


「デートの日にちが決まったら、教えろって言ったわよね?」


「あ、そうだった。日にちとデートプラン決まったぞ」


 すっかり忘れていた。金沢は、むっと口をすぼめる。


「もう。私が言いに来なかったらそのまま忘れていたのかしら?」


「いや、言うつもりだったって。あと、名前も聞いた」


「誰なの?」


 俺は、lineのアイコン画面を見せながら言った。


「二年C組の、荒巻楓ちゃんだ」


 金沢は画面を見つめて、少し首を傾げた。


「ふぅん。知らない子ね。まずは、デートについて教えなさいよ」


 俺はスマホを机に置くと答えた。


「日にちは、今週の土曜。で、俺さ、彼女ができたら行きたいところが前からあったんだよ。だからそこにしようと思って」


「へえ? どこかしら」


「天然倶楽部。横浜にある、貸し切り混浴風呂」


 あの天然倶楽部って、どっからどう考えてもカップルじゃないと楽しくないから、行きたかったけど行けなかったのだ。

貸し切り混浴て……もうね。響きがね。最高じゃないですか。



「ばっかじゃないのおおおおおおおおおおおおおおお!?」



 思いっきりビンタされた。なんで!?


「なんだよ! いってーな!」


 俺はぶたれた右頬をさすりながら金沢を睨みつける。

 しかし、金沢は謝らない。


「初めてのデートで貸し切り混浴風呂って……いかがわしい! 不潔な臭いしかしないじゃない! たとえ荒巻さんが名城に本気だったとしても、ドン引きよ!」


「だって、好きなんだろ? 男と女が付き合う、それって要するにそういうことだろ? だったら先にやることやっといた方がいいじゃんか」


「おかしいわよ! なんで名城は、荒巻さんの告白がウソか真か分かっていない状態で、そんなことを考えられるわけ!?」


「そりゃあ、仮にウソだったとしてもさ! ヤれたんだとしたら、それは最高のウソだよね!」



「この最低ド底辺糞男があああああああああああああああああああ!」



 再度思いっきりビンタ。次は左頬。なんなの? コイツ、本当なんなの?


「なんだよ。じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


 俺の考えた最高のデートプランに文句つけるなんて、本当金沢って奴は……。

はぁ……。

 俺が大きくため息を吐くと、同じくらい大きな「はぁ……」というため息を金沢も吐いて言った。


「もう分かったわ。『名城』という人間のことが、よぉく分かった」


 金沢は、机をバンっと叩く。


「こうなったら、私が! この私が!」


 そして、叫んだのだ。



「名城と荒巻さんのデートプランを、考えてあげるわよ!!」



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