第6話 俺は神崎夢が好きだった。本当に
突然だが、俺は中学生の時、大好きな人がいた。
神崎夢。
俺の初恋の人。こんな俺に、優しく接してくれた天使。
神崎にとって一番の仲良しは俺だったと言い切れるし、俺の一番の仲良しは夢だった。
俺はずっと、夢に恋をしていたのだ。
……夢は、そうではなかったのだと思うけれど。
何度も告白するチャンスはあった。告白しようとも思った。
しかし勇気が持てなくて、「好きです」。この四文字を夢に言うことはなかった。
俺たちはそのまま、卒業した。
そしてまさかの、俺のスマホが故障。lineのデータが全部初期化してしまい、夢の連絡先が分からなくなってしまった。
これが高校一年生の四月での出来事。
俺はそれ以来、夢へ連絡する手段を失ってしまった。
これが、神様が課した俺への試練か……そんなことをぼんやりと考えながら、俺は絶望した。
もう、夢に想いを伝えることは一生叶わない。夢は違う高校に進学してしまった。
俺のこの思いは封印するしかない。封印して、俺は前を向いて歩くしかない。
俺は分かっていながら、前へ進みだすことが出来なかったのだ。
俺は所謂、逆高校生デビュー。
中学時代はそこそこ友達がいたのに、高校生になって、完全に周囲と距離を置くようになってしまった。
俺はどうせ、誰かを好きになっても、告白する勇気を持てないクズだ。
友人だって、作るのが面倒くさくなった。一人でいる方が、よっぽど楽なのだ。
強がってるんじゃない。これが事実なんだ。
誰かと仲良くなればなるほど、自分の時間は削られていく。俺は一人でスマホをいじくる時間が好きだ。一人でどうしようもないことを考えるのが好きだ。
だから、このままでいいんだ。
そう、思っていたのに…………。
家に帰ってきて、俺は早速ベッドにダイブ。
枕に顔をびたーっとくっつけて、悶絶した。
「あああああああああああああああああ!」
こんな俺が、女の子に告白されちゃった……。
あんな可愛い子に、人生初めて、告白されちゃった……!
「いやいやいやいや! ウソでしょ! 詐欺だってば! 絶対! 付き合う詐欺! 交際詐欺! 俺から金騙し取るつもりなんだ……俺金ないのに!」
冷静な俺と、舞い上がる俺。脳内で二人の俺が葛藤している。
告白されて嬉しい反面、ウソとしか思えないシチュエーション。
正直、半信半疑。半分嬉しいけど、半分不安。
これが壮大な詐欺の始まりだったとしたら……俺の人生狂わされちゃったとしたら……。
俺は夢に告白する勇気が持てなかったクズだが、女の子の方から告白してくる可能性というものを一切除外していた。
告白しなくちゃ恋人はできないと思っていたが、女の子から告白されるというケースも確かに存在するらしい。
ああ。
こんな時、友達がいれば、相談できるのに。
これってどういう意味だと思う? って。でも俺には、相談できる友達がいないんだ。
俺が、友達を作ることを拒んだから。俺は、いつも孤独と隣り合わせなんだ。
これは自業自得。誰のことも責められない。俺が望んだ道なのだから、仕方のないことだ。
友達のいない俺は、女の子から告白されたという議題について、一人で解決策を導かなくてはならない。
「…………」
悶々と考える。
イエス。ノー。ウソか、マコトか。
「…………わかんねー」
ぷしゅー。
全身の力が抜け、俺はまたも枕にダイブした。
どうやら、俺一人でこんこんと考えても、こればかりは埒が明かない問題のようだ。
一度客観的に、誰かに事情を話して、意見をもらいたい。
……こういう時って、どうすればいいんだろう。
お金払ってもいいから、相談したい。意見をもらいたい。
どっか、そういうところないかな。
俺は早速ネットで検索。お悩み相談室みたいなところ。
でも、調べた瞬間気づかされる。
お悩み相談室とは、イジメとか、生きるのが苦しいと思っている人の無料相談室のようだ。間違っても、「告白されちゃいました! どうしよどうしよ☆」みたいなことを相談する場所ではない。
「うーん……」
俺はスマホを置いて、目を閉じる。
どうすりゃいいんだろ。どうすれば……。ん?
「そういや……掃きだめ委員って、なんだ?」
ふっと、金沢の言った単語を思い出した。
掃きだめ委員を知っているか、とか、言ってた気がする。なにをしている委員会なのか知らないけど、ちょっと気になる。
告白という議題を考えている途中だが、一度気になってしまったものは仕方ない。
俺はスマホを使って、検索画面に掃きだめ委員と打つ。一応、黎明高校というワードもくっつけて。
さくっとヒット。先頭のところに、掃きだめ委員の公式ページが出てくる。
どうやら、本当に存在する委員会のようだ。
クリックすると、でかでかと書かれている文章が目に入った。
『他人の感情が分からないクズのお悩み、なんでも相談に乗ります』。
どうやら、やっていることは、人助け。
「他人の感情が、理解できない……か」
――――世の中では、他人のことを理解できない人間のことを、『クズ』と呼ぶ。
普通の人間は、他人の気持ちを慮って行動ができるらしい。
俺としては、驚き以外のなにものでもないのだが、事実そうなのだ。
世の中の大半の人間が、他人を思いやりながら、他人と楽しく暮らすことができる。
……でも、俺は違った。決定的に違った。
俺はいつだって、どんな時だって、劣等感を覚えている。
それは、勉強ができないからではない。
ルックスが悪いとか、そんな理由でもない。
友達がいないから、とかいう理由でもない。
俺は、俺というクズ人間は。
――――みんなが『楽しい』と思えることが、『楽しい』と思えない。
みんなと同じ感情を『共有』できないことが、一番の劣等感なんだ――――。
だって、そうだろう?
みんなは喜んでクラスの行事に積極的になってるんだよ。
そこに何一つ疑問を抱かない。
ただ、ひたすらに――――球技大会、文化祭、修学旅行、林間学校――――そういう一つ一つの行事に本気になって取り組む。
みんなは、嫌々楽しんでるフリをしているんじゃない。本気で楽しんでいるんだ。心から。
なのに俺はどうだ?
そういう行事が目の前にちらつく度、逃げ出したくなる。卑屈になる。
どうやったら休めるか、そんな意味のないことに思考を巡らせる。
クラスのBBQだって、俺以外の全員が、楽しみにしていたんだ。
だが俺は、欠席に丸をした。さぞかし不思議に思っただろう。
こんなに楽しい行事に出席をしない人間は、おかしい。
だから、彼らは言ったのだ。
『変わろうとしない、お前が悪いよ』――――と。
それは正しい。一つの側面から物事を見たら、間違いなく正しい。
『世間一般』という、一つの側面から見たら。
でも俺は、その世間一般に入れない、ごく一部の人間なんだ。
「あー、今日は疲れた。やっぱ明日連絡しよ」
はぁ…………。
俺はみんなと、違う感情を抱え、生きている。
みんなと感情を共有できないことに、苦痛を感じている。
それが俺――――。
――――俺という、どうしようもないクズなんだ。
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