君のギターとぼくの歌

姫川翡翠

本編

プロローグ

 最高のステージだった。

 舞台から降りても、全く興奮は収まる気がしない。

 いつまでも、いつまでも、ぼくはあそこに立って、ギターを弾いていたかった。

 歌う君と共に、ステージに立っていたかった。

 魂を叫んでいたかった。

 けれど、すでにあのステージは、ぼくたちのものではなくなっている。今ごろ次の人たちが盛り上げているはずだ。

 もどかしい。

 不完全燃焼な感情を共有したくて、君を見た。

 隣に座る君は、落ち着かないようにキョロキョロしている。繋がれた右手を強く握っても、まるでぼくのこの気持ちに気付かない。次の演奏が始まっているはずなのに、依然としてスタッフたちは慌ただしく走り回っている。そんな彼らを、君は期待するような目で、見つめ続ける。

 ぼくは見上げて、大きくため息をついた。そろそろ、ここを後にしなければ、邪魔になってしまう。しかし、どうしても足が動いてくれなかった。

 すると、どういうわけか、演奏しているはずだった次のグループの人たちが戻って来て、そして、舞台側から、ひとりのスタッフが叫んだ。舞台袖にいた全員の視線が、ぼくたちに集まる。

 瞬間、彼女はパアァッと顔を輝かせ、ぼくを見た。目があったと思うと、ぼくの手を引っ張り、ステージの方へ、歩き出す。引きずられるように、ぼくもついて行く。

「どういうこと!?」

 スタッフからギターを受け取りながら、ぼくが聞くと、

『アンコールだ!!』

 君は振り返っていった。

 それを知って、ぼくは、大きくガッツポーズを決めた。そして君と見つめ合う。

スウッと大きく息を吸い込んでから、

 

「『まだまだ、終わらせてたまるかよ(ないんだから)!!』」


 気合いを入れ直した。

 強く繋がれた手を放し、一度コツンと拳を合わせてから、ステージに上がる。

 大歓声が、ぼくらを包む。大手を振ってそれに応える。

 ぼくも、君も、終わりたくないんだ。


 いつまでも、魂で、叫び続ける。

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