不審者の気配

  ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年八月一五日 午前二時一〇分

 その後も少し世間話をしたためか、軽く喉が渇いてしまった二人。その場の成り行きで冷蔵庫に入っているミネラルウォーターを飲むために、マーガレットとジェニファーは一階リビングの台所へ向かう。

 だがリビングへと続くドアを開けると同時に、静まり返った部屋の中で何かの物音が聞こえたような気がしたマーガレット。

「……ん? ジェン、今何かリビングの辺りで何か物音が聞こえなかった?」

とっさに自分の右隣にいるジェニファーに問いかけるものの、彼女は無言で首を横に振るだけ。

『私の気のせいかしら? 確かに今奥の方で、何か物音がしたと思ったのに……』


 少し神経質になりすぎたと思ったのか、何事もなかったかのように振舞うマーガレット。同時に明かりのスイッチを入れようと手を伸ばした瞬間、再びリビングの奥の方から“コトン”という何かの音が聞こえてくる。

 さすがに今度は気のせいではないと思いながらも、お互いに軽く目を見開きながら見つめ合うマーガレットとジェニファー。薄暗いリビングには重苦しい緊張感が漂っており、二人は物音の正体に少なからず怯えている。

「も、もしかして泥棒……それとも野生動物? ま、マギー……どうしよう?」

「と、とりあえず落ち着いて! 様子を確認するため、そっと近づいてみましょう……」

小声でコンタクトを取りながらも、気配を殺しながら二人はそっと音がする方へ一歩ずつ近づく。

 

 すると確かにマーガレットの思惑通り、冷蔵庫の近くで何者かがいる気配がする。息を殺しながらそっと近づくと、ジェニファーの足元に何か固い物が当たった。

「……? 何かしら、これは?」

 恐る恐る固い物の正体をつかもうと手触りや匂いなどを確かめると、それはジェニファーが嗅いだ事がある香り。さらに注意深くその匂いを嗅いでみると、ほんのりと甘い香りがする。

「ま、マギー。これを見て!」

小声で隣にいるマーガレットへ声をかけながら、必死に話しかけるジェニファー。

「これは……? そういえばこの間“冷蔵庫のフルーツの数が少ないわ”ってフローラが言っていた原因って、もしかしてこれじゃない!?」

「ということはやっぱり、アライグマやリスなどの野生動物かしら?」

「……かもしれないわね。わ、私何か動物を追い払う道具持ってくるから、ジェンはここで見張りをお願いね」

と言い残すとマーガレットはその場を離れ、見張り役のジェニファーを残し一人どこかへ向かうのだった。

「あっ、マギー。ちょっと待ってよ!? ……もぅ、何で私が一人で見張りをしないといけないの!?」


 マーガレットのあまりの自然な行動に、思わずその場の雰囲気の流されてしまったジェニファーは、一人おいてけぼりにされたことに愚痴をこぼす。

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