香澄の日記(三)

              『香澄の日記(二)』


 [二〇一五年八月三日 午前八時〇〇分……ワシントン州シアトルの季節も無事夏を迎え、非常に過ごしやすい日が続いている。私の故郷の日本と比較をしても気温が一〇℃前後低く、ここシアトルは夏でも涼しく快適。

 もうすぐ私はワシントン大学心理学科の大学院生となる予定だが、今はちょうど夏休み中。講義こそないものの、私は毎朝いつもと同じ時間に起床している。休みだからと言って夜更かしすることはなく、体のリズムを崩さないようにするためだ。


 しかしここ最近私の体に、ある異変が起きている――正確には体ではなく心と言うべきだろうか? の数々が、ここ数日ほど夢として現れることが多い。メグと一緒に日本で暮らしていた時にもぼんやりとトムの夢を見ることはあったが、今回のようにあの子と過ごした日々がそのまま鮮明に出てくることはなかった。……これは何かの予兆なのかしら?


 最初に私がトムと過ごしたころの夢を見たのは、七月下旬のこと。この頃は私もまだ大学生で、必死にトムの心のケアを行ってきた。その努力が報われたのか、一度は忘れかけていたトムが笑顔を再び取り戻す。少し前まで雨雲のように暗く沈んでいたとは思えないほどの明るさで、“この無邪気な姿や性格こそ、僕らが知るトム本当の姿だよ”とトムを良く知るケビンとフローラは教えてくれた。


 八月上旬に入ってからも、私は再びトムの夢を見た。夢の内容もはっきり覚えており、シアトル郊外でトムたちと一緒に和食レストランへ食事に行った時のこと。以前から和食に興味があると知っていた私は、シアトル郊外にある和食レストランへトムたちを連れて行った。同時に親友のメグとジェニー・そして今までお世話になり続けているケビンとフローラにもささやかな恩返しがしたいと思っていたので、私にとってこれはちょうど良い機会だわ。


 通常はここまではっきりと夢の内容を具体的に覚えていることなど、本来ならありえない――これが何か悪い前兆でないことを、私は信じたい]

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