スペースニードルの絶景

   ワシントン州 スペースニードル 二〇一五年八月一〇日 午後七時〇〇分

 ハリソン夫妻の仕事が予定通り午後一七時三〇分に終了し、香澄たちは彼らと一緒に夜にスペースニードルへ行くことになった。しかしスペースニードルはワシントン大学と正反対の場所にあることから、午後七時〇〇分ごろに現地集合という形になる。

 約束の時間十分くらい前に到着したのは、香澄・マーガレット・ジェニファーの三人組。香澄たちの後へ続くかのように、ハリソン夫妻も待ち合わせ場所へと無事到着する。約束の時間に全員合流したことを確認した後、夜景を楽しむためスペースニードルへと入る香澄たち。


 綺麗な夜景が見えるのはシアトルの天候次第でもあるが、幸いなことに今日は絶好の晴れ日和。そのため悪天候時において絶景が眺望出来ないという香澄たちの懸念も、この時は心配する必要もなかった。

 初めてスペースニードルの夜景を眺望する香澄は、あまりの景色の美しさに言葉を失ってしまう。車のヘッドライトやシアトルを照らす街灯が景色を彩っており、それはまるでカラフルな蛍の光を見ているようだった。

「……綺麗。私たちが住んでいるシアトルって、こんなに幻想的な景色なのね!」

「本当だよね、香澄。私は昼間だったら来たことがあったんだけど、夜は初めてよ。こんな絶景が楽しめる場所があるって知っていたなら、学生時代に行けば良かったわ」

「香澄、マギー、あちらを見てください。みんな写真を撮っていますよ。私たちも記念に写真撮りましょう」

シアトルの絶景とも呼べる夜景を目の当たりにした香澄たちは、まるで子どもに戻ったように無邪気にはしゃいでいる。


 そんな香澄たちの楽しそうな姿を見たハリソン夫妻も、とても嬉しい気持ちで胸が一杯。だがハリソン夫妻は彼女たちのように無邪気にはしゃぐのではなく、夜景を見つめながらお互いの手を握り合っている。

「よかったわね、あなた。香澄たちもあんなに喜んでくれて。香澄の気持ちも、これで少しは晴れてくれると良いのだけど……」

「うん、僕もそう願っているよ――そうだ、フローラ。僕が君にプロポーズした時のこと、覚えているかい?」

 シアトルの夜景を楽しんでいる香澄たちとは対照的に、ロマンチックなムードに包まれ思い出に浸るケビンとフローラ。それは結婚したての新婚夫婦のような、そんな幸せ色を浮かべている。

「えぇ、もちろんよ――確かあの時、あなたはプロポーズ用に用意してくれた結婚指輪を途中で無くしてしまい、スタッフ総動員で探したわね?」

「おいおい……そこは“忘れられない夜だったわ”とか“人生で最高の一日よ”とか、もっと他に言うことあるだろう? まったく、本当にフローラにはかなわないな」

「ふふ。あなたのことだったら私、何でも知っているのよ。だってあなたは、私の人生の半分以上を共に過ごしてきた大切な人……なんだから」


 まるで昔に戻ったかのように二人は見つめ合い、ケビンの肩に寄り添うフローラ。夜空をそっと照らす星達が、二人を祝福する鐘を鳴らしている。

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