【香澄・マーガレット・ジェニファー編(一)】

シアトルの観光名所へ行こう!

               九章


        【香澄・マーガレット・ジェニファー編】

     ワシントン州 シアトル郊外 二〇一五年八月九日 午後一時〇〇分

 ハリソン夫妻や親友のマーガレットとジェニファーらの願いによって、しばらくの間自宅で心の静養を取っている香澄。大学は今夏休み中ということをふまえると、まさに不幸中の幸いとも呼べる状況だ。

 だがそれは行動を制限されてしまうことでもあり、当初の香澄にとって若干の苦痛だった模様。しかも勉強漬けだった日々が多かった香澄にとって、心理学の自習や復習などが出来ないことは苦痛にほかならない。


 そんな香澄の身を心配するマーガレットとジェニファーは息抜きしようと、彼女をシアトル郊外へと誘う。時期は夏休み真っ只中ということもあり、シアトルの街には家族連れやカップルなどが多い。なおシアトルは夏でも気温が二五℃前後となることが多いため、日中はとても過ごしやすい。

「メグ、ジェニー。午後は久々に三人で出かけようということになったのはいいけど、一体どこへ行く予定なの?」

 実は三人で外出しようと持ちかけたのは香澄ではなく、彼女を心配したマーガレットとジェニファー。特に予定がなかった香澄は異論はないようだが、その外出先はまだ決まっていない。

「私は特にないけど……ジェン、どこか行ってみたい場所ってある?」

「いえ、私も特にありません。そうだ、香澄はどこか行きたい場所ってあります? ちなみに大学とか図書館、そして“一人になりたい”というのはだめですよ」

「そうね……せっかく外出するのだったら、シアトルならではの観光名所へ行きたいわね」


 外出すること自体が久々の香澄も、頭の中では観光名所が良いと思っていたようだ。だがそんな香澄の声を聞いたマーガレットは、

「だから“その具体的な場所を教えて”って、私たちは言っているのよ!? もう、香澄。しっかりしてよ!」

“質問に質問で返さないで”と頬を軽く膨らませている。そんな二人のやりとりを横で聞くジェニファーは、優しい笑みを浮かべるのだった。


 そんな言い争いをしている最中、香澄たちの周辺には日光の日差しが一時的に増していく。香澄たちを照らす太陽の光を右手でさえぎりながら、青空を見上げている。するとそこで何かを思いついた香澄は、

「そうだわ……だったら今度一緒に、シアトルにあるへ行かない? そこで私、シアトルの街を眺望したいの!」

「――いいんじゃないかしら? ジェンもそれで問題ないわよね!?」

「もちろんです。それじゃ早速……あっ、ちょっと待ってください!?」

一度はスペースニードルへ行こうという流れになったのだが、ここでなぜかジェニファーが何か意見を述べたい素振りを見せる。

「せっかくスペースニードルへ行くのでしたら、日中ではなくにしませんか? 夜景もばっちり見えるので、おでかけにも最適ですよ」

 

 その言葉ぶりから、ジェニファーはどうやらスペースニードルへ行ったことがあるようだ。なおスペースニードルは高さ約一八〇メートルにもおよび、ワシントン州シアトル中心地に位置する塔。日本では東京タワー、そしてフランスではエッフェル塔に似た観光名所の一つ。


 日中にどうしてもスペースニードルへ行きたいというわけでもなかったので、ジェニファーの言う通り後日夜景を見にいくことになった香澄たち。そしてその日の夜に、香澄たちはハリソン夫妻へそのことを話す。するとちょうど明日は夕方までに仕事が終わる予定なので、その後に皆で行くことをハリソン夫妻は約束してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る