一欠片の迷いと気がかり
ワシントン州 スペースニードル 二〇一五年八月一〇日 午後八時〇〇分
初めて眺めるスペースニードルの夜景に心奪われたジェニファー。それは隣にいる香澄とマーガレットも同じようで、絶景を見て言葉を失う。これまで暗く塞ぎ込むことが多かった香澄の表情にも、自然な微笑みが浮かんでいる。
そんな絶景を堪能しつつも“ちょっと私、おみやげを買ってきます。八時二〇分くらいまでには戻りますね”と香澄とマーガレットへ伝えた後、ジェニファーは一階のギフトショップへと向かう。
夏休みのしかも夜の時間帯ということもあってか、スペースニードルのギフトショップには案の定多くの人が集まっている。その多くがカップルや家族連れで、みな幸せそうな顔をしている。ジェニファーはそんな彼らの表情を見て心弾ませながらも、
『展望フロアでは香澄たちが待っているから、早めにお買い物を済ませないと!』
軽く店内の商品をチェックする。
当初はおみやげ選びに時間がかかると思われたが、何の迷いもなくジェニファーは緑色のスペースニードルを
『今日はあまり時間がないから、他の商品を見て回る時間はないわね』
などと思いながらもジェニファーは置物を手にレジへ向かい、代金を支払った後香澄たちのいる展望フロアへと戻る。どうやらジェニファーは、最初から購入する予定の商品に目星をつけていたようだ。
軽く息を切らしながらも、展望フロア行きのエレベーターに乗るジェニファー。この時の時刻は夜の八時一五分で、何とか集合時間に間に合いそうだ。左手の腕時計で時刻を確認していることから、ジェニファーなりに時間を意識している模様。
若干乱れた髪とブラウスを両手で軽く整えながら、ふと視線を前に向けるジェニファー。そんなジェニファーの目の前には、金髪でセミロング姿の若い女性の姿が目に映る。とっさのことなのではっきりと確認したわけではないが、ジェニファーが見かけたその若い女性は、どことなくエリノアに似ていた。
「い、今のはエリー!? 何でここにあなたがいるの? ……とにかく急いで追いかけないと!」
急いでエリノアらしき女性を追いかけようと試みるジェニファーだったが、あいにく彼女はエレベーターの奥に立っている。しかもエレベーターの中はすでに満員に近い状態で、追いかけようにも身動きが取れない状況下にある。
そんなことを考えている間にエレベーターは動き始めてしまうが、ジェニファーの心臓の鼓動はいつになく激しい。胸に手を当てなくても鼓動が聞こえてくるほどで、その場で足を“トントン”と音を叩き続けている。
その後数十秒が経過し、ジェニファーを乗せたエレベーターはあっという間に展望フロアへ到着する。すぐにエレベーターを降りたジェニファーは、ここでもう一度エリノアらしき女性を追いかけるべきか選択肢を
エリノアらしき女性の行方と香澄たちの約束、その双方を天秤にかけるジェニファー。その結果多少不本意ながらも、ジェニファーは香澄たちが待つ展望フロアへと向かうことにした。だがこの時のジェニファーの心の奥底には、一点の迷いと気がかりが残ってしまう……
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