苦悩と後悔の先に待つ答えとは!?
ワシントン州 エリノアの自宅 二〇一五年八月一〇日 午前一一時〇〇分
トーマスを死に追い詰めた香澄たちを憎み続けることで、苛立ちといった感情をエリノアなりに発散している。しかしそれとは対照的に、エリノアはある自責の念に駆られている。その時に取ってしまったエリノアのある軽率な言動が、香澄の心の傷をさらに深く
『な、何であの時私は香澄と仲直りしなかったの!? せっかく香澄が仲直りしようって言ってくれた、唯一のチャンスだったのに……』
自分のことを心から心配してくれた香澄に対し、エリノアは自らの判断で彼女の心を叩き折ってしまう。
昨日の出来事を思い出しながら、何度も頭を抱え込みながらも苦悩し続けるエリノア。確かに香澄たちにはトーマスを救えなかったという罪があり、そのことを責めるエリノアの気持ちはごく当たり前のもの。
しかし感情に心を支配されたためか、必要以上に香澄たちへ自分の疑問に対する答えを早急に求めすぎたようだ。それがエリノアの思惑とは裏腹に、香澄をさらに追及するという結果になってしまった。
『私は別に……香澄たちを本気で責めるつもりはなかった。香澄たちを責めてもトムたちは戻ってこない――そんなことは分かっているはずなのに』
エリノアの心にもまた、香澄たちとは異なる罪を背負っている。いや……エリノアのケースに限っては、背負う必要がない罪と言っても良いだろう。だがエリノアがこれまでに体験した数々の不幸の連続が、彼女を変えてしまったのかもしれない。
まず一つ目に考えられる可能性として、今のエリノアにはアメリカ国内における友達がいないこと。数週間前までは香澄たちという親友がいたのだが、些細なことから彼女たちとの間に仲違いが発生し、今は彼女たちと一切連絡を取っていない。
そしてエリノアはフランスに住む学生時代の友達とも連絡を試みたが、彼らもまた各自の生活を忙しい。またフランスとアメリカでは時差が大きく異なるため、電話やメールなどをしても時間帯がずれることも少なくない。
そしてエリノアを変えつつある二つ目の理由として、彼女が数年前に最愛の両親を病気によって他界してしまったこと。エリノアもまたトーマスのように両親を突然亡くしており、そのことが今回のトラブルの要因となった可能性が高い。
学生の時に両親が他界してしまったことによって、死について人一倍考えることが多くなったエリノア。その矢先に“もう一度彼らに再会して、一緒に楽しいアメリカの生活を過ごしたい”とエリノアが心から願っていた相手の訃報。それに加えてトーマスの自殺について、香澄たちが少なからず関係している事実を耳にする。
数年間に多くの不幸を体験しすぎたことによって、エリノアの心身もまた香澄たちとは別の意味で疲労している。
仮に今のエリノアの身近に香澄たち以外の友達または恋人などがいれば、このような事態が起こることもなかっただろう。だが今のエリノアは一人ぼっち状態でもあるため、物事を良い方向へポジティブに考えることが難しい心境。むしろネガティブ思考に支配されつつあり、最悪の事態になるまえに手を打つ必要がある。
『……駄目。四六時中一人でいると、頭がおかしくなってしまうわ。どこかへ外出して、気分転換しないと!』
今のところ
サンフィールド夫妻、いや……トーマスという少年との出会いによって、香澄とエリノアの人生は大きく変わりつつある。純粋な気持ちで心に深い傷を負ったトーマスを救うと誓い、数年間かけて一つ屋根の下で心のケアを行い続けた香澄。そしてフランスに家族旅行へ来ていたトーマスたちへ、善意でガイド役を引き受けたことで、サンフィールド一家との間に深い絆が生まれたエリノア。
香澄とエリノアたちに共通していることとして、彼女たちはいずれも損得勘定ではなく自分の良心に従って行動していたということだ。数日から数年間という短い日々であったものの、お互いにトーマスたちとの間に深い思い出を作ることが出来た。
そして運命の糸に誘われるかのように、ワシントン大学で数ヶ月前に出会った香澄とエリノア。果たして彼女たちの出会いは、本当にただの偶然だったのか? それとも亡きトーマスの面影が、何らかの理由で香澄とエリノアを
レイクビュー墓地で愛する両親と静かに眠るトーマスは、今の香澄とエリノアの姿を見てどんな気持ちなのだろうか? トーマスとはまた違う意味で、責任感が強く純粋な香澄。そしてトーマスとはまた違う意味で、人一倍感受性が高く優しい性格のエリノア。
本当ならお互いに認め合うことが出来る香澄とエリノアだが、ほんの些細な誤解によって今は距離を置いている。そんな香澄とエリノアの姿を見たら、天国で眠るトーマスはひどく落胆してしまうだろう。
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