香澄たちへの想い
ワシントン州 エリノアの自宅 二〇一五年八月一〇日 午前一〇時四五分
事の一部始終を聞いたエリノアは、強い憤りともどかしさを香澄たちへぶつけてしまう。そこで危うく香澄の頬を叩くような事態になりかねたものの、エリノアの自制心が働いたことで最悪の結果は免れた。
そしてふとしたことから、エリノアが数日前にワシントン大学で香澄と再会する。しかしここでも二人は負の連鎖を断ち切れぬどころか、余計に溝を深めてしまう。その結果香澄とエリノアの友情に亀裂が入ってしまうどころか、日常生活に支障をきたすほどの悪影響が出てしまうかもしれない。
普段の優しい性格のエリノアなら、香澄たちへこのような暴言や悪態などを吐くことはありえない。だがサンフィールド夫妻やトーマスを救えなかった香澄たちへの憎しみが強すぎるあまり、一時的にエリノアの人格や性格を変えてしまった可能性が高い。
なおエリノアはサンフィールド一家の訃報に人一倍こだわっているのだが、それは彼女の過去が大きく関係している。サンフィールド夫妻のように不幸な事件が原因ではないものの、ベルテーヌ夫妻もまたエリノアが高校生の時に病気で亡くなっている。
むろんお互いの両親が他界した時のトーマスとエリノアの年齢も異なるため、その現実の受け止め方にも大きな違いはある。しかし学生時代という一番大切な時期に二人は両親を亡くしていることから、その心の傷の深さは想像を絶するものだろう。
『最初は香澄たちも苦しんでいて、“彼女たちも精一杯努力したけどトムを救うことは出来なかった。それが本心だったのなら、私もこれ以上香澄たちを恨むのは止めよう”って思っていたのに』
サンフィールド一家の不幸を自分の身内のように考えることから、おそらくエリノアはエンパスと呼ばれる、人一倍共感力が優れている女性だと思われる。だがエンパスであるがゆえに、それが結果的にエリノアを苦しめ続ける負の連鎖が続いてしまう。
当初は心から同情していた時期もあったが、香澄が漏らした思わぬ本音がエリノアの神経をさらに刺激してしまう。それがさらなる火種を呼んでしまい、今現在もエリノアは香澄たちへ強い憤りを覚えている――その怒りはエリノアが新学期を向けるまでに収まりそうもなく、今後の彼女の将来が懸念される。
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