11-5

「幸希のいうのもわからなくはないけど、でもこれだけ捜査や鑑識の分析技術がハイレベルになってるのに、何も発見されないっていうのに私は疑問を持つの。じゃあさあ、もう一度初めに戻っておさらいしてみようか」

「ええ」

「まず、家を出たときには、家のひとに何もいわずに出ている。向かった方向は家から東の方角、つまりスーパーあるいは駅に向かっていた。しかしスーパーに目撃者らしきひとはいない。ということは、スーパー以外の場所。あっそうだ、幸希、山中キャプテンが誰かと付き合ってたっていうウワサを耳にしたことはない?」

「いえ、私の知る限りでは、そんなひとはいないはずです。どちらかというとキャプテンはバスケに集中してましたから、ボーイフレンドがいたということはないと思います」

「でも、影でコソコソやってたという可能性もないことはないわね。まあそんなことは別として、仮にボーイフレンドに会いに行ったんじゃないとしたら、先輩が向かった先は駅しか考えられないんだけどなァ……」

 私は、頭を抱えて考える振りをする。

「うーん」幸希は頻りに何かを思い巡らしている。

「佐々木部長は家出じゃないっていってたけど、やっぱりこの前いったとおり家出なんじゃないのかなァ。そんな気がするよ」

「私、いま思ったんですけど、国道の橋を渡って、川沿いに自転車を走らせたんじゃないでしょうか」

「何で?」私の顔色が一瞬変わった。

「だって、スーパーを過ぎていて、駅にもキャプテンの自転車らしきものが見当たらない。だとすると、国道の橋を過ぎて右折したというのも大いに考えられますよね。どうしていままで考えつかなかったんでしょう」

「そうだね、それもありだよね。それで幸希の推理はそれからどうなるの?」

「ごめんなさい、その先はまだ……」

 気がつくとポテト・チップの函は空っぽになっていた。

「もし幸希がいうように川沿いに走ったとしたら、どこに向かったんだろうね。こっちに用があったとしたら、住宅ばっかだから遊びに行くようなところはないし、あるとしたら友だちの家くらいかな。それとも下流に何かと特別な用事でもあったのかなァ。もしそうだとして、乗ってた自転車は行方不明のままだよね」

「そうなんです。そこんとこが私も引っかかってるんです」

「じゃあさあ、これからドロ川に行ってみない? そのあとこの間の駄菓子屋に行こう。ひょっとして、あの週刊誌の記者が来てるかも」

「そうですね、行ってみましょうか」

 幸希は、水を得た魚みたいに急に元気になって椅子から立ち上がった。

 私はとりあえず幸希を川の堤に誘うことに成功した。このあと何か口実を拵えて橋を渡らせなければならない。しかし幸希は私のいうことに服従するはずだから何とかなる自身はあった。

 私は家の戸締りをすると、これから起ろうとすることに対する気持を少しでも鎮めたいというのがあって、フリスクをふた粒口の中に放り込んで外に出た。幸希はすでに自転車のハンドルを握って私を待っている。また夏に舞い戻った陽射しは、ジリジリと露出した肌に灼きついてくる。うんざりした。

 家の前の緩やかな斜面を二台連なって下って行く。日盛りのせいかひとの姿はまったく見えない。行動を起こすには絶好の時間帯なのかもしれないと思いながら堤に上がった。さらに陽射しが勢いを増している。

 

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