11-4
幸希が家に来たのは昼の一時過ぎだった。
プリングルスのポテト・チップを器に開け、幸希に薦めながら、
「佐々木部長から電話なかった?」と、私は直球を投げる。
「いえ」
「じつはけさ佐々木部長からが話があるって電話があったの」
指先についた塩粒を落としながら訊く。
「そうなんですか、私のところにはまだ……。で、どんな話のないようだったんです?」
「うん、もちろん山中先輩についてだよ。そうそう、佐々木部長と別れたすぐあと、例の週刊誌の記者につかまっちゃってさ」
「駄菓子屋で会った、あの記者ですか?」
「私の想像では、いま佐々木部長が情報を得るために部員のところを廻っているから、そのあとをついて何かを嗅ぎつけようとしてたんじゃないかな」
「で、麻柚先輩は記者に何ていったんです?」
「何も知らないっていったよ。だってほんとなんだもん」
私はリモコンを手にしてエアコンを強めにした。
「ところで、幸希は何か新しい情報を手に入れた?」
「いえ、私なりに気にしてバスケ部の友だちやクラスの友だちに電話して情報を掴もうと努力したんですが、まったくといっていいくらい新しい情報が得られませんでした。逆に先輩が何か耳にしてないか訊きたくて電話しようと思ったときにタイミングよく電話があったんです」
私は直に幸希の言葉を聞いてほっとした。佐々木部長、週刊誌記者、幸希の話を総合して、事件が硬直していることを確信した。
「そうなんだ。じゃあ、キャプテンを国道近くで目撃したとかいう近所のおばさんはどうなの?」
「はっきりとはわかりませんが、おばさんは目撃したことをひどく気にしてて、母がそのおばさんに相談されたらしいんです。そういわれてもどうすることもできない母は、そんなに気になるなら一度警察に話したら、と助言したみたいです」
幸希がいってるのは嘘じゃなさそうだ。その証拠に、話す言葉に澱みがない。
「で、どうしたの、そのおばさん」
「随分迷ってたみたいなんですけど、おそらく警察には行かないんじゃないでしょうか」
「そっかあ」
私は心の内とは正反対の言葉を洩らした。
「何かすっきりしないんですよね」
「ほんと、山中先輩はどこに行ったんだろう? これほどみんな気にしてるのに、ひょっこり顔見せたら拍子抜けだよね」
「先輩はまだキャプテンが無事だと思ってます?」
幸希は乗り出すようにして私の答えを待っている。
「うん、事件に巻き込まれたとは思ってない。だってこれだけ警察も捜査してるのに、何も出てこないっていうのも不思議じゃん、だからきっと無事だよ。そう思わない? 幸希」
「うーん……そうなんですけど、私的にはそうは思えないんですよね。根拠があるわけじゃないんですけど、何ていうか、予感みたいなものが頭から離れないんです」
「それは幸希の思い過ごしだよ」
「そうでしょうか」
「そうだよ。きっとそうだよ」
私は何とか幸希の推測を捻じ曲げようと必死になる。しかしあまりにも過剰に否定することは逆効果だとも思った。
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