11-2
時間を稼ぐようにゆっくりとオレンジ・ジュースを飲んだ私は、幸希と話したときのことを思い出しながら掻い摘んで話した。
「確かにあんたの推理したように山中が行動したとも考えられるよね。でも、家出だとすれば、スマホのことが納得いかないよね」
「納得がいかないって、どういうことです?」
私は訝しげな顔のまま部長に訊いた。
「もし家出をしたとして、スマホの電源をずっと切っていたら本人としても不安だと思うし、行動するにも何かと不便なんじゃないかァ」
「そういわれればそうです。私たちの推理が間違っているかもしれません」
わざと自分の非を認める振りをした。
これでさっきの失言がチャラになる――それより、調査が私で何人目なのか知らないが、話し振りからするとこの佐々木部長も煙たい存在になることは間違いない。この際立花幸希より先に橋の向こうへ連れて行ったほうがいいかもしれない――。
「佐伯どうしたの? そんな怖い顔で私を見て」
「いえ、すいません。ちょっと考え事してたもんですから。ところで部長、ひとつ訊いてもいいですか?」
「訊きたいことって?」佐々木部長は怪訝な顔で私をやや斜めに見た。
「警察はちゃんと動いてるんでしょうか?」
「どういうこと?」
「例えば、情報を得るのにクラブ員ひとりひとりに聞き込みを行っているとか……」
私は遠まわしに警察の動向を訊ねてみる。
「いや、いまのところ私が知ってる限りでは、そういったことはないね」
「じゃあ、部長のところにも、まだ?」
「ああ。訊きたいことってこのことかい? だったらそろそろ出ようか。ごめん、朝早くから呼び出したりして」
「いえ、全然かまいません。少しでも山中先輩発見のちからになればと思います」
佐々木部長と私はルームを出た。会計は部長がすべてをすませた。
私は、警察が身辺を動き廻ってないことを耳にして少し楽になった。
店の前で部長と別れた。これから別の部員と会わなければいけない、といい残して勢いよく自転車を走らせた。
部長の後ろ姿を見送った私が自転車にまたがってこぎ出そうとしたとき、背中からふいに声をかけられた。
「あーちょっと、君」
前に一度聞いたことのある声だ。私はゆっくりと首を後ろに巡らせる。
薄汚れた恰好で佇んでいる男の姿があった。逆行ではっきりと顔が見えない。
男はゆっくりと私の右側に位置を移しはじめた。自転車の前輪のところまで来たとき、ようやく男の正体がわかった。駄菓子屋で会った週刊誌記者の沼田洋三だった。
「何ですか?」
ぶっきらぼうに私はいった。そのあとはっと気づく。あまり毛嫌いをすると変に怪しまれるかもしれない。ここは普通の高校生であるかのように振舞うのが賢明だ。
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