episode 11 回帰

 そろそろ夏休みの残りが少なくなってきている。焦燥が蝕みながら私の背中をジリジリと後押しする。スマホを手にした私は、幸希の電話番号を表示させる。そして事件のことで話したいことがあると理由をつけて午後から家に呼びつけた。幸希は私からの電話を待っていたらしく、ふたつ返事で承諾した。

 幸希との電話を切ってすぐにスマホが鳴った。バスケの佐々木部長からだった。部長は話があるからすぐに会いたいといってきた。話の内容は訊くまでもない。

 断るわけにもいかず、私は指定されたカラオケ・ボックスに向かった。カラオケ・ボックスはいつも行くクリーニング屋からさらに自転車で三分ほどのところにあった。

 すでに佐々木部長は店の前で待っていた。デニムのスカートに白いTシャツ姿という軽い服装だ。佐々木部長は今年三年生で、背はそれほど高くなく、どちらかといえば小柄で丸っこい体型をしている。一見したところ、小廻りがきくといった感じだろうか。

「佐伯、部長はカラオケ・ボックスの部屋で話をしようか」

 部長は私の返事を聞くまでもなく、勝手に店の中に入って行った。カラオケ・ボックスは平日の午前中だと信じられないくらい安く利用できる。部長はそれを知ってて私を誘ったのだ。

 部屋に入った私たちはもちろん曲をかけるわけではなく、自販機で買ったジュースを手にして向かいあった。

「話っていうのは、ほかでもない。山中キャプテンのことなんだけどさ」

「はい」

「佐伯、あんた何か心当たりはない? いや、これはみんなひとりひとりに訊いてることなんだけど……」

 おそらく部長という立場からそうせざるを得なかったのだろう。

「はい。私もあれからずっと気にはしてるんですが、これといった有力な情報がないんです。この間も一年の立花(幸希)と話したり、足取りをたどったりしたんですけど……」

「足取り? 足取りって、何か知ってることがあるの?」

 私はつい口を滑らせてしまった。幸希とふたりで山中先輩の失踪を推理したのは、幸希が口にした近所のおばさんの話が大前提となっている。つい幸希と話しているのと同じ調子になってしまった。

「いえ、違うんです。立花と山中先輩の話をしてて、自分たちが勝手に推理しただけのことです」

 余分なことを口にしてしまったという後悔がどぎまぎさせる。

「ふーん、そうなんだ。でも、それでいいから聞かせてくれないか?」

「はい。でもこれは本当に推理ですからね」

「いいよ、わかってる」

 部長は手にしたカフェ・オ・レの缶を勢いよく呷った。

 私は話し出す前に一度頭の中を整理なければならない。そうしないと今度口を滑らせたら完全に怪しまれてしまう。

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