8-5

「はい、先輩」

 左手にあったのを私の目の前に差し出す。

「サンキュ。お金あとで払うからね」

「いいんです。これはサキのおごりですから気にしないでいいです」

 私と幸希はしばらく無言のままアイス最中を頬張った。

「さっきのスマホのことなんだけど、連絡がとれたのかとれなかったのか気になるところなんだけど、まったく情報を得られないよね」

「そういえばそうですね」

「そう。それともうひとつ、いままで幸希が推理した以外にあるのよ、考えられることが」

「――?」

「家出よ、家出。いい、これを前提に失踪したときの条件を当てはめてみると、方向は駅に向かっている。自転車は駅の近くに放置して置けばすぐには発見されない。駅みたいな場所だと、このあたりと違って、ひとが多過ぎて目撃者がいるようでいない。いまだに犯人からの要求もなく、遺体も見つかってない。それが理由」

 階段のいちばん一番下に目を落としながら話した。

「そっかァ、その可能性があったんだ。でももし家出だとしたら、どこに行ったんでしょう?」

「ひとそれぞれに思いがあるから、それだけは本人にしかわからないよ。ところで最近ニュースのほうはどうなってるか知ってる?」

「いえ、気をつけてはいるんですが、どの局もこのところは一時と違って取り上げてません。新聞も同じです。ということは、捜査が行き詰まってるっていうことなんでしょうか」

「そうかもしれないよ」

 私は何とかして事件から幸希の気を逸らせたい、そればかりが頭の中を旋回している。もしこれ以上首を突っ込むようだと、何か手立てを考えなければならない。いくら可愛がってきた幸希といっても、こればかりはどうしようもない。そうでもしなければ私の身に捜査の手が伸びることになる。

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