8-2
「何ですか?」
私は名刺を手にしながら訝しげに訊いた。
「いま、学校の裏門を超えてこっちに来たでしょ?」
「知らないわそんなの。誰かの見間違いでしょ」
私は、目の前のかき氷をスプーンで突き崩した。
「嘘ついてもだめだよ。これ見てごらん」
記者はポケットから名刺大のデジカメを取り出し、液晶の部分を私たちに見せる。写っていたのは確かに私たちふたりだった。証拠写真を見せられた私たちはもう開き直るよりなかった。
「それが?」
「何で正門じゃなくて、裏門からそれも逃げるようにしてここに来たのかな」
記者は店のおばさんに灰皿をもらい、タバコに火を点けながら薄笑いを浮かべた。
「だって、うざいじゃん。知らないことをあれこれと訊かれるの。ね、幸希」
幸希はうんうんと頷いているものの、隠すことができない不安は瞳にはっきりと出ていた。
「どんなことでもいいんだ。気がついたことがあったら教えてくれないかな。君たちだって同じバスケ部のキャプテンがどうなっているか気になるだろ? 俺たちだって同じだよ。まあ仕事っていうのもあるけど、もしこれが犯罪だとして、犯人がのうのうと毎日を送っていると思うと、はらわたが煮え繰り返る思いだ」
タバコを灰皿に圧しつけながら私たちを見据える。アルミの灰皿がかたかたと音を立てた。
「私たちも同じ思いです。でも本当に何も知らないんです。もういいですか? 私たちもう帰ります」
「そう、じゃあ何か気がついたことがあったら、その名刺に書いてある携帯に電話してくれないかな。そのときはちゃんとお礼させてもらうからね」
「わかりました。何かあったら電話します」
私たちが椅子から立ち上がって財布を取り出そうとしたとき、
「勘定はいいよ、払っとくから」と記者は造り笑いを浮かべていった。
「ええッ、だって見ず知らずのひとにご馳走になるわけにはいきません」
「いいから、いいから。遠慮するなんて高校生らしくないぞ。こういうときは素直に好意を受けるもんだよ」
「じゃあご馳走になります。ありがとうございます」
私たちは記者にお礼をいって駄菓子屋の外に出た。
「幸希さあ、なんか邪魔が入って話ができなかったから、駅前のマックでも行って話さない?」
「いいですよ。私も胸に何かがつかえてるようですっきりしないんです」
幸希は、いままで見せたことのないしかめっ面でいった。
駅前まで来ると、まるで別の世界に紛れ込んだかのように人々は動いていた。事件のことなどまったく気にしてないというふうに映った。私は世間がそのままずっと無関心でいて欲しいと思った。
チーズ・バーガーを半分ほどかじった幸希が私の顔をじっと見詰めたあと、バーガーを紙ナプキンの上に置いて話しかけてきた。
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