episode 8 週刊誌記者

 午前中に部室へ十七名の部員が集まった。

 狭い部室に入りきれない部員は、外にはみ出したままでバスケ部顧問の野間先生の話を聞いている。話はもちろん山中キャプテン失踪についてだった。

 野間先生も部員の手前しかつめらしく話すものの、どう対処したらいいのか困惑しているのがありありと窺えた。部員にしても同じだ。誰がどれだけ訊かれても答えられるはずはない。すべての経緯を知っているのはこの私ひとりしかいない。

 結局、野間先生の話は十分ほどで終わった。野間先生はあとを振り返ることもなく職員室へ急いだ。おそらくこのあと校長を含めての会議に入るのだろう。部員は戸惑いながらも蜘蛛の子を散らしたみたいにして帰って行く。中には自分には関係がないといった表情をあからさまに見せる部員もいた。

 私は幸希を呼び止める。幸希が怪訝な顔で近寄って来ると、私は耳元で囁いた。

「もう少しここにいたほうがいいよ」

「えッ?」と、幸希。

「見てみな、いま学校を出たらあそこにいる報道陣に捕まって、根掘り葉掘り訊かれるのが関の山だよ。だからもう少し様子を見てから出たほうがいいから」

 校門の前には、テレビ局が数社、新聞社や週刊誌のカメラマンなど溢れんばかりの報道陣が犇きあい、まるで蜂の巣を突っついた騒ぎになっている。ここから見るところ、部員の何人かがインタビューを受けている。

「やだあ、ほんとですね」

「だから、あのうざいのを避けるんなら、もう少しここで時間を稼ぐか、裏門から出るかのどっちか」

 幸希にそういったものの、私自身ある程度のことは想定していたけれど、これほどになるとは思わなかった。あのとき私はママが『気』を吸収して再生することと、生きているときと同じように毎日顔を見られることばかりが先に立っていた。 いまになってはもうあと戻りできない。後ろを振り返ることなくこのまま突き進むよりない。

 どれくらいの時間部室にこもってやり過ごそうとしただろうか。痺れを切らしてそっと部室から抜け出すことにした。

「先輩、自転車どうします?」

「そんなのあとで取りに来ればいいよ。それともあの取材人の中に飛び込んで行きたいの?」

「それはァ……」

私たちは裏門を乗り越え、逃げるようにして学校から遠ざかった。

「幸希、どこかでちょっと話しない?」

 私は思い切り走ったあとなので、ふうふうと息を切らしながらいった。

「いいです。ちょうど私も先輩と話したかったところです」

「じゃあ、例の駄菓子屋で氷でも食べながら話そうよ」

 駄菓子屋の店内はがらんとして、この前みたいに子供の姿はない。同じテーブルに坐ってミルク金時とイチゴを頼んだ。

 かき氷を待っていたとき、入り口で物音がした。何気なく顔を向けると、よれよれの紺色のジャケットを着て、ぼさぼさの髪をした中年の男のひとがこちらを見ていた。鋭い目だった。その眼光に気圧された私は、慌てて視線を逸らしたものの、その後も見据えられている気がしてならなかった。

「ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな?」

 男のひとは名刺を差し出していった。名刺には、『週刊アスタ 記者 沼田洋三』と印刷されてあった。

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