7-4

 やはりママがいったことは嘘じゃなかった。あの花火大会の夜、病院の屋上で健斗は確かにタバコを喫っていた。はじめてのキスがタバコの味だったのもちゃんと覚えている。

「だからさァ、話って何なの」

 私は、腕に纏わりつくやぶ蚊を追い払いながらベンチを離れた。

「いま話すから、ここに坐ってくれないか」

「いいけど、早くしてくれない? 蚊がうざいんだよ」

 私は健斗が話そうとしている内容を薄々感じている。それを聞いたあとでどうリアクションしたらいいか戸惑うのもわかっている。そんな自分が惨めに思えてならないからわざと距離を置いている。仕方なく渋面を見せてふたたび健斗の隣りに腰を降ろす。私はスニーカーの爪先で地面を蹴りながら健斗の言葉を待った。

「あのさァ、俺……麻柚のこと……前からスキだった」

 健斗は地面に目を落としたまま呟くようにいった。

「ええーッ!」

 想像したとおりの展開になっているが、私は予想外だったかのように装う。

それと同時に、まるでデジャ・ブでもあるかの感覚がはしった。

「嘘じゃない。この前花火大会誘ってくれなかったじゃん。俺すっごく愉しみにしてた。ぶっちゃけ、花火見ながらコクろうと思ってたんだ。でも行けなかったから、あれからずっと考えてた、どうやってコクろうかと……」

「マジぃ?」

「マジさ。どう、俺のこと嫌い? はっきりいっていいよ。俺、結構打たれ強いからさ」

「別にィ」

 私は内心跳び上がるほど嬉しかったが、わざと気のない振りをする。どう話を繋いでいいか困惑している健斗の気持がヒリヒリと伝わってくる。

「ってかさァ、悪いけど、私いまそれどころじゃないの」

 突然の打ち明け話にどう返事をしたらいいかわからなかった私は、ふと頭に浮かんだことを理由にしようとした。

「それどころじゃない?」

「うん、健斗が好きとか嫌いとかいう問題じゃなくて、知ってるでしょ? 私たちの学校の、それも私の所属するバスケ部のキャプテンが行方不明になってるじゃない。健斗の気持は嬉しいけど、いまは無理、無理」

「その事件は俺も知ってる……昼のニュースでやってた。でも彼女は一体どうしちゃったんだろう」

「わからない。まったくわからない。きょうバスケの佐々木部長から電話があったけど、先輩に会ったわけじゃないから知らないというよりなかった」

「やっぱり誘拐なんだろうか? だとしたら、何が目的だったんだろう?」

「やめなよ。誘拐って決まったわけじゃないし、家出したのかもしれないでしょ」

 私はなるべく健斗に余計な関わりを持って欲しくなくて、何とか鉾先を変えようとした。

「家出かァ、その線もないことはないな」

「健斗、私、もう帰る。お姉ちゃんが夕飯待ってるから」

「わかった。でもさっき俺がいったこと、嘘じゃないからな。事件が片付いたらちゃんと考えて返事してくれよな。俺、真剣なんだから」

「うん。ってかさあ、本当に私のことが好きだったら、私のいうこと何でも聞いてくれる?」

「ああ、いいよ。麻柚のいうことなら何でも聞く」

 健斗が本当に私が好きなことはそれでわかった。私の気持はずっと前――花火大会の日から決まっているので、いま返事をしようと思えばできないことはなかったが、面と向かって告白されると、なぜか時間をかけて考えてみたくなった。

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