7-3

 私は包装紙を外して中身をふたつ取り出すと、小走りに和室に行き、仏壇に供えた。そのあと昼のニュースがはじまるのでテレビの電源を入れ、ジュース片手にもみじ饅頭を頬張りながら新聞記事のことを話しつづけた。が、私が客観視しつづけるためにどこまで話しても発展しない現状に諦めた幸希は、心なしかちからを落として帰って行った。

 ひとり残った私は、世間の意外な反応に戸惑いつつ、そうだこれを話の種にして健斗に電話をしてみよう――そう思い立ったとき、スマホが鳴った。今度は間違いなく健斗からの電話だった。嬉しかった。

「もしもーし」

私はいままでのことすべてを忘れて明るく振舞った。

「俺だけど、久しぶり。ちょっと話があるんだけど、会ってくれないか?」

「いいけどォ」

 私は健斗の少し沈んだ声に怪訝さを隠せないまま返事をする。

「じゃあさあ、きょうの七時に麻柚ん家の近くの公園まで来てくれる?」

「わかった。七時ね」

 電話を切った私は、これまで悩んでいたのが嘘のように晴れやかな気分になった。思わずくすりと笑ってしまう。

 少し早めにスーパーへ買い出しにゆく。橋を横目で見ながら、ママはお盆で忙しかったのだろうな、明日になったら会いに行こう、そう思いながらペダルを踏んだ。

 家に帰った私は、お姉ちゃんにいわれた夕飯の準備をすませると、リビングのテーブルに、「すぐに帰る」と書置きを遺して、健斗が電話で指定した「ひまわり公園」に向かった。家を少し早めに出たのは、お姉ちゃんが帰って来てからだと、間違いなく余計なことを詮索される、それがうざったかったからだ。

 健斗はまだ来てなかった。公園の片隅あるベンチに腰を降ろす。二メートル四方の小さな砂場、錆びた鎖を気怠げに垂らしたブランコ、首を傾げたままやがて訪れる帷を漫然と待ち侘びるシーソーがあるだけの小さな公園にひとの影はなかった。

お盆が過ぎてから急に日脚が早くなった気がしたが、公園の入り口のところにある水銀灯を見ると、そこには鱗粉を撒き散らしながら乱舞する蛾の踊り子がいて、周りにはスタンディング・オベーションを送っている羽虫の姿があった。その光景の見る限り、まだ夏は終わっていない。

ブレーキの軋み音が聞こえると、健斗がこの前と同じ恰好で姿を見せた。

「待たせてごめん。久しぶりィ」

健斗は、まともに顔を見ることもなく私の右側に腰を降ろした。私は健斗の「久しぶり」という言葉に引っかかるものがあった。やはりママがいっていたことは本当だったのだろうか。それともただの思い過ごしなのだろうか。

「話ってなに?」わざとぶっきらぼうにいう。

「うん――」

 健斗は短く返事をしたあと、なかなか次の言葉を口にしない。健斗の煮え切らない態度に私は少し苛々しはじめる。沈黙がとてつもなく長い時間つづいたかに感じたとき、健斗が胸のポケットからタバコの函を取り出した。私はその仕草を横目で黙って見ていた。

 健斗がライターを手にするのを見て、

「こんなとこでタバコ喫うのはやめなよ。家の近くだから、誰が見てるかわかんないからさ」と、私。

「わかった。俺って、麻柚の前でタバコを喫うのはじめてだよな。でも何かいまの言い方は、俺がタバコを喫うのを知ってたような言い方だった」

 健斗は素直にタバコの函を胸にしまった。

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