6-5

 ママは随分と変わった。最初に私が話しを持ちかけたとき、目の色を変えて反対をしたのに、いまになっては信じられないくらい恬然とした口調で話している。私は話を聞いているうちに段々とそれが当たり前である気がしてきた。

「……じつは昨日花火大会があって、友だちと一緒にこの家の前を通ってずっと向こうまで自転車で見に行った」

「そう――でも、おそらくその友だちの花火を見に行った記憶は頭の中から消し去られているに違いないわね。でも麻柚、あまり無闇に誰彼の見境なくこの土地へ連れて来ないほうがいいわよ。大事なひとならなおさらのことね。取り返しのつかないことになるかもしれないから」

 私は一瞬どきりとした。果たしてママは健斗のことを知っているのだろうか。そして、健斗に花火大会の記憶がなかったとしたら、私の気持を惑わせたあのキスはどうなるのだろう。またしても別の不安が頭をもたげてきた。

「わかったわ。もう誰も連れて来ないから。ところであさってからお盆に入るでしょ、みんなでママのお墓参りに行くのよ」

「そうお、ありがとう。ママ嬉しいわ。久しぶりにパパや夕子の顔が見られるのね」

「お姉ちゃんと相談して、ママの大好きだったキンツバお供えすることにしたのよ」

「まあ、そうなの? じゃあママ愉しみにしてるね」

 ママは目を細めて微笑んだ。

 私は、これが何度目になるのだろう、と思いながら橋を渡り、相変わらず狙い打ってくる強烈な陽射しから逃げるようにして家に帰った。

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