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 朝食も昨日の晩と同様に三人だけの食事となった。パパはまだ部屋で眠っている。幸希がいらん気づかいをしなくてもいいので、逆にそのほうがよかった。

結局昨日パパが帰ったのは深夜二時を過ぎていた、とお姉ちゃんが眉をしかめてこぼした。お姉ちゃんの機嫌が悪いのはそれだけじゃなかった。

 パパは仕事の帰りに友人と飲みに行ったために、会社に車を置いて帰って来た。ということは、車がないために焼肉を食べに行くには歩いて駅まで行かなければならない。駅前まで歩いて二十分そこそこのものだが、お姉ちゃんにとってはそれが気に入らなかったに違いない。私は私で、これ以上波風を立てないで欲しいと思っている。せっかく後輩が遊びに来ているのに、我が家の醜態で気まずい雰囲気を味わわせたくなかったからだ。

 家族がリビングに顔を見せる時間がまちまちだったため、結局四人が顔を合わせたのは、家を出る十分ほど前だった。そのときのパパはいつもより嬉しげな顔を隠そうともせず、先頭に立って家を出た。

 焼肉レストランまでの道すがら、パパは終始先頭を歩き、三歩下がって歩いているお姉ちゃんに時折り何事か話しかけている。いつもより駅までの時間が短く感じた。

 店に着いて店員に席に案内されると、パパとお姉ちゃんが一緒に坐り、私と幸希が隣り同士に坐った。先に飲み物を頼んだあと、早速メニューを開いて私たちは食べたいものを吟味する。そのときのパパは壁に躰を寄せ、タバコを吹かしながら黙って私たちを眺めていた。

 注文を取りに来た店員にタン塩、ロース、カルビ、ハラミ、トントロ、キムチ、野菜などを一気に注文した。パパの誕生日のはずなのに、張本人が口にしたのは塩ホルモンだけだった。

 それぞれの飲み物を手にして誕生日の乾杯をすませると、お姉ちゃんがバッグからリボンのついた細長い包みを取り出した。

「パパ誕生日おめでとう。これ、私たちからのプレゼント」

「いや、ありがとう。いいのか? この形からすると、どうやらネクタイのようだな。ここで開けてもいいけど、せっかくのプレゼントに脂の匂いがついてしまうから、家に帰ってゆっくりと拝ませてもらうよ」

 パパはそういってプレゼントをふたたびお姉ちゃんに手渡した。「あのう、これ、たいしたもんじゃないですけど……」

 幸希が手提げ袋から、ラッピングされた小さな箱をパパの前に差し出した。お姉ちゃんと私が、「そんなことしなくていいのに」と声を揃えていった。思わぬ幸希からのプレゼントに、パパは相好を崩した。早速ラッピングを剥がして中を開けると、皮製の携帯ストラップが出てきた。

「ありがとう。カッコいいじゃん、これ。こんなの誰もぶら下げてないよ。早速点けさせてもらうね」

 パパは、みんなに見せびらかしながら子供みたいに喜んだ。パパの嬉しそうな顔を見ていたお姉ちゃんは、自分たちのプレゼントもここで開けて欲しそうな顔をした。

 目の前の金網に次々に肉が載せられると、炎と脂の焼けた烟が一気に立ち昇る。普段なら嫌がる私たちも、身悶えする肉を目の前にしたらそんなこといっていられなかった。

 家族揃って食事をしたのは久しぶり。やはりパパとのこういった時間をもっと持ちたいと思った。と同時にママがいっていた、「……あとに残ったパパと夕子はどうするの? また悲しさに胸を痛めることになるでしょ」という言葉が耳朶にこだましている。

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