2-2

「まあ、何とかね。とにかく上がりなよ。誰もいないから遠慮しなくていいから」

「お邪魔しまーす。麻柚先輩、これ」

 幸希は白い紙袋を私の目の前に差し出した。食欲をそそるポテトフライの油を含んだ匂いが鼻先を掠める。

「一緒に食べようと思って、途中でハンバーガーを買って来たんです。もしよかったら」

「いいね、いいね、ハンバーガー。ひとりだから、お昼は何にしようか悩んでいたとこだよ」

 私は、思いがけない訪問者とおみやげに小躍りしたい心境になっている。

「よかった。でもエプロンしたそんな先輩見てると、何だか結婚したての新妻みたいですね」

「そんなに所帯ずれして見える?」

「いえ、そういう意味じゃなくて、こう、任されて家庭をやりくりしているといった感じをいいたかったんです」

 幸希は必死になって言い訳をしている。慌て振りがとても可愛らしかった。

 冷蔵庫からコーラのボトルを取り出し、ふたつのグラスに注ぎ分けると、早速向かいあってハンバーガーを頬張った。

「おとといあんたと別れて家に帰る途中でテントウ虫に噛まれてさ」

「えッ、っていうか、テントウ虫って噛みつくんです?」

「じゃなくて、あの子たちは絶えず何かを確認しながら生活してるの。例えば、木の幹だとか葉っぱの上だとか、地面なんかを歩きながら口にできるものを捜してるんだよ、きっと。たまたま私の腕に止まったときにその動作をしただけのこと」

 事実かどうかはわからなかったが、以前何かで得たうろ覚えの知識をさももっともらしく喋った。

「痛くなかったです?」

「ううん、ちょっとチクッとしたくらい。そのあと家に帰って夕飯の支度をすませ、お姉ちゃんとご飯を食べたあとお風呂に入った。そこまでは普段と変わりなかったんだけど、そのあとで信じられないくらいの熱が出たの。でもどうしてそうなったのか、まったく思い当たるところがないのよね」

「ふうん。でもいまは、見たところいつもの先輩と変わりないですよ」

「そうなの。きょうというよりも、昨日の夜にはすっかり熱が下がってた」

「でも、それって不思議ですよね」幸希は包み紙を掌の中で丸めながらいった。

「幸希、いい? ここだけの話なんだけど――」

 私はどうしようか逡巡していたが、思い切って幸希に話すことにした。

「何です、急にそんな怖い顔になって」

「あたし、バスケ辞めようと思ってるの」

「えッ!」

 幸希は突然のカミングアウトにどぎまぎした顔になっている。無理もない、幸希にとって寝耳に水の話なのだから。

 私は先ほど山中キャプテンと電話で話したことの一部始終を聞かせた。しばらくは神妙な顔で聞いていた幸希だったが、突然怒った声になっていった。



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