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 店の前では夏休みの小学生が三人、嬉しげにアイス・キャンデーを頬張っている。冷房も効いてない店内には、いくつかの駄菓子が入ったガラスケースと商品を並べた棚、それとグリーンの花柄がプリントされたデコラの食堂テーブルが二卓置いてあるだけだった。

 店のおばさんにカキ氷のイチゴ・ミルクとメロンを頼んだあと、椅子からつと立ち上がった幸希は店の隅に行ってクリームパンを取ってきた。しばらくして、カキ氷が目の前に置かれると、私は少し粗めに削られたグリーンの山をスプーンの腹でそっと圧し潰した。慎重に全体を整えてからゆっくりと口に搬ぶ。甘さとメロンの青い香りが上顎の奥で踊り出した。両方のこめかみに錐で揉まれたような激痛が奔りはじめ、思わず指先で押さえる。

「痛ッたァ」片目をつむりながら思わず洩らしてしまった。

「私もここんとこ痛いです。これって医学用語で『アイスクリーム頭痛』っていうんですよね」

 幸希はスプーンを持った手で生え際を指差した。

「嘘ォ、本当に? 何でそんなこと知ってるの幸希は」

「この前テレビでやってました」

「そうなんだァ」

 お互いに半分ほど食べた頃に、何もいわないまま器を交換する。それが私たちのルールだった。

「ねぇ、先輩、明日で夏季練習が終わりますよね? そのあと夏休みはどうやって過ごすんですか?」

 幸希はスプーンを口に搬びながら上目づかいで麻柚を見る。

「うーん。いまさァ、悩んでるんだ。私一年前に母親を交通事故で亡くしてるでしょ、だからこの先大学に進学しようか、それともいっそ就職してしまおうかってね。パパやお姉ちゃんは、経済的なことは心配しなくていいから、大学に行けっていうんだけどさ。大学に行かないんだったら、しゃかりきになって勉強する必要ないしさ」

「そうなんだ。でも私がいうのは生意気かもしれないですけど、将来のことを考えたら無理しても大学には行っておいたほうがいいんじゃないですか」

「そうかなァ。正直いってよくわからないよ」

「そうですよ。絶対そうですよ」

「まあ、もう少し時間をかけて考えてみるよ。ところで、幸希はこの夏休みに何か予定を立ててるの?」

「母のほうのお婆ちゃんが広島にいて、お盆にお婆ちゃんに行くのが毎年恒例になってるので、予定といったらいまのところそれぐらいです」

「いいな、羨ましいよ。私はパパもお姉ちゃんも忙しく仕事してるから、とても遊びに行けそうにないな。幸希が羨ましいよ」

 私は、煤で汚れて黒くなった天井を見上げながらこぼした。口先だけではなく、本当に羨ましかった。

なぜ私だけがこんな不幸な目に遭わなければならないのだろう――。


つい一年前までは家族四人の明るくて穏やかな家庭だったのに、いまでは不幸のどん底に落とされてしまっている。

 私は一度だけママを轢き殺したトラックの運転手の顔を見たことがある。そのときの悪びれることのないふてぶてしい態度を思い出すと、いまでも掻きむしりたいほど胸が熱くなる。ひとりの人間の不注意によって抉られたような深い疵は、生涯けっして癒されることはない。

 パパもお姉ちゃんもきっと同じだと思う――。

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