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 そういえば――昨日部活から帰ろうと思い、自転車のカギを外していたとき、背中のほうで私を呼ぶ声が聞こえた。

「先輩―ィ」

 一年生の立花幸希たちばなさきのよく通る声に振り返ると、エンジ色のジャージ姿で日に灼けた黒い顔から真っ白な歯をこぼしながら駆け寄って来る姿が見えた。

 幸希はこの四月に青陵高校に入学し、私の所属するバスケット部に入部した。彼女の素直な性格と物怖じしない明るい性格が好きで、目をかけるというと大袈裟だが、後輩部員の中では気に入っている中のひとりだ。

 幸希は私が持ってない部分をたくさん持っている。例えば、どんなに先輩にシゴかれても腐ることもなく、平然とした顔で耐える。三年生からすればシゴキ甲斐のある部員のひとりだ。

 練習が終了したあとも、率先して道具を片付け、元気のいい声で挨拶をして帰ってゆく。そんな姿を見て妹のように思うのは、何も私ばかりでないのが練習中にでもよくわかった。

「麻柚先輩、お疲れさまでした。夏季練習も明日で終わりですね」

「そうだね。どうだった? はじめての夏季練習」

 私は白のスポーツバッグを自転車のカゴに放り込みながら訊く。

「はい。最初の頃は途中でバテないかと心配してたんですが、大丈夫でした」

 幸希は笑顔を浮かべ、さばさばとした口調で答えた。

 私たちは肩を並べながら歩き出す。見上げると色紙を切り取ったようなターコイズ・ブルーの空が耀き、鋭い陽射しがぴんぴんと音を立てて振り降りてくる。明日が過ぎればようやく人並みの夏休みを愉しむことができると思うと、それも気にはならなかった。

「麻柚先輩、冷たいものでも食べて帰りませんか? いつもご馳走になってばかりですから、きょうはサキが……」

「いいよ。後輩に奢ってもらうわけにはいかないから、ワリカンということで行こうか。で、どこ行く?」

「カキ氷なんかどうです?」

「いいね。じゃあそうしよう」

 話が決まると、私たちは学校から少し離れたところにある駄菓子屋風の店に急いだ。


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