JKの抱いた殺意
zizi
episode 1 発熱
濃緑のスクリーンに映し出される取り止めもない映像に困惑し、あげくは自分を見失いそうになりながら手探りで闇の中を浮遊しつづけた。
やっとの思いで意味不明な夢から抜け出したとき、不思議なことに四十度近くあった熱が嘘のように消えていた。
ベッドから躰を起こし、目覚し時計に目をやると、時計の針は夜の七時を廻っていた。靄のかかったおぼつかない頭で思い巡らすと、単純に計算しても二十時間近くうなされつづけていたことになる。
その間、一年前に交通事故で亡くなったママが何度も夢の中に現れた。
ママは私が高校に入学して間もない頃、近くの国道で居眠り運転の大型トラックに跳ねられ、打ちどころが悪かったせいでほとんど即死状態だった。私が報せを聞いて病院に駆けつけたときにはすでに息絶えていた。
ママの変わり果てた姿に茫然とし、そのショックを引き摺って何日も泪の日を過ごした。ママが夢の中に現れたのは、おそらく一年間ずっと頭の中から離れなかったために、潜在意識がそうさせたに違いない。
私はベッドから抜け出して窓際に佇みカーテンをそっと開ける。
外はまだ微かに明るさが残っている。
コバルト色の空は胸を締めつけるくらい神秘的だった。
どこからか、ガラスを濾して途切れ途切れに蝉の泣き声が聞こえてくる。その瞬間普段の自分に戻った気がした。
突然部屋のドアがノックされた。私は振り返りながら返事をする。
ドアを開けて部屋に入って来たのは夕子姉ちゃんだった。私とは四つ違いの姉。ママが亡くなって以来お姉ちゃんは勤めながらママのかわりに家族の面倒を見てくれている。まったく頭が上がらない。
夕子姉ちゃんは心配そうな顔を隠せないまま訊いた。
「
「うん、もう大丈夫みたいだよ」
「熱、測ったの?」
「ううん、測ってないけどわかる。躰がすっきりしてるもん」
私は口元に笑みを浮かべてお姉ちゃんの顔を見た。
「だったらいいけど、念のために測っときなよ。ご飯の用意しておくから……それともここで食べる?」
「いい。下に行って食べる。ありがと、お姉ちゃん」
私は階下に降りたかった。たった丸一日のことでありながら、なぜか長い間家を離れていた気がしたからだ。
お姉ちゃんが部屋を出て行ったあと、ベッドの縁に腰掛け、頭を抱えながら原因を探ろうとするが、まったく見当がつかない。
本来ならきょうは、青陵高校女子バスケット・ボール部の夏季強化トレーニングの最終日だった。夏休みに入ってから二週間毎日汗みずくになって練習をしてきたのに、最終日に思いがけない発熱で休むことになってしまった。いまさら思ってみたところでどうなるものでもないのだが、きちんと締め括りだけはしたかった。
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