第190話 令和元年11月12日(火)「カレンとの約束」キャシー・フランクリン
日曜日は大失敗だった。
姉のリサが勉強しろとうるさいから逃げ出すようにカレンの家に行った。
なのに、カレンから説教をされてしまった。
リナが突然勉強しろと言い出したのもカレンのせいだった。
結局、パーティの日まで勉強すると約束させられてしまった。
その日、家に帰るとまるでカレンのような笑顔でリサが待っていた。
悪夢のような日々が続きそうだ。
ワタシはただ空手をして、たまにダンスをしたり、お喋りをしたりするような生活をしたいだけなのに。
なんで、みんな邪魔をするのか。
パパとママは好きにすればいいと言ってくれたのに。
きっとカレンのせいだ。
きっとカレンは悪魔だ。
ああ、神様。
ワタシを助けてください!
ママに車で送り迎えしてもらうインターナショナルスクールは退屈な場所だった。
アメリカではワタシとつるむような連中がいたのに、ここにはいない。
最初からそうだった訳ではない。
初めのうちは男子の連中とうまくやっていた。
それが、みんなの前で男子のボスに回し蹴りを入れて吹っ飛ばして以来避けられるようになった。
ちょっとふざけただけなのに。
道場以外で空手を使ってはいけないというカレンの言いつけを破ってしまったので、このことはカレンには秘密にしている。
先生たちに反省文を書かされ、次にやったら退学だと脅されたのはまだいい。
それまで仲が良かった男子は口をきかなくなり、女子からも相手にされなくなった。
インターナショナルスクールに通う日本人生徒からは化け物を見るような目で見られて、話し掛けただけで泣かれたこともあった。
自分のクラスにいてもつまらなくなったので、ワタシはあちこちを探検して回った。
そこで見つけたのがカトリーヌとリナだった。
年少のふたりはみんなから隠れるようにひっそりと過ごしていた。
カトリーヌはしっかりした子で、アフリカ系フランス人だが流暢な英語を話す。
一方、リナはヒーナに似た感じの子で、ヒーナより更に小柄だった。
リナは無口でワタシともあまり喋ろうとしない。
カトリーヌによると、リナはこんなだから友だちもできず、周りから浮いた存在らしい。
そこでカトリーヌがいろいろと面倒を見ているそうだ。
ヒーナとジュンを思い浮かべる関係だ。
しかし、それはリナの自立のために良くないからあまり世話を焼くなと大人たちから言われていると、カトリーヌは教えてくれた。
それで、こんな誰の目も届かない場所で一緒にいることが多いと言った。
ふたりと知り合ってから、一緒に過ごすことが増えた。
同じ場所だと発見されやすくなるのでいくつかの秘密の場所を巡っていると話すカトリーヌから、転校したばかりのワタシはこの学校についていろいろと教えてもらった。
ワタシは木に登ったり、壁をよじ登り屋上に行ったりできるので、ふたりよりも隠れ家が多くなった。
逆にふたりに向いた狭い場所だと、身体の大きさのせいで窮屈だったりするけど。
今日もふたりがいそうなところを見て回ったのに、ふたりの姿がなかった。
どうかしたのかとふたりのクラスに行くと、リナだけがポツンと座っていた。
『リナ、カトリーヌは?』と聞いても、リナは首を横に振るだけだ。
困って、近くの生徒に声を掛ける。
怯えているように見えるが気にしない。
『カトリーヌは?』
『インフルエンザで欠席だって先生が言ってた』
『……そうか。カトリーヌがいない間はリナの面倒を見てくれよ』
ワタシと話した生徒は嫌そうな顔をしたが、ワタシが睨むと『分かったよ』と頷いた。
ワタシは仕方なく自分のクラスに戻った。
そして、カレンとのもうひとつの約束のことを考える。
感謝祭のホームパーティに同級生を連れて来るというものだ。
カレンからはちゃんと女子を連れて来いと言われている。
男子なら脅して無理やり連れて来ることも考えられたのに残念だ。
ワタシはクラスの女子、特にシャロン・アトウォーターを中心としたグループの子たちが好きじゃなかった。
シャロンはクラスの黒人女子グループのボスだ。
男子はそうでもないが、女子は黒人系、白人系、アジア系でくっきりとグループが分かれている。
転校した当初はシャロンのグループに歓迎してもらえたのに、いつの間にか彼女たちはワタシに馬鹿にしたような視線を向けるようになった。
ワタシもヒソヒソとグループ内だけで言葉を交わす彼女たちを好きになれなかった。
このまま関わらずにいればいいと考えていたが、ホームパーティに呼ぶとすれば彼女たちに声を掛けることになる。
気は進まないが、ワタシは約束を守る人間だ。
ワタシは神様に祈ってからシャロンたちに声を掛けた。
ワタシの珍しい行動に彼女たちは驚いている。
その隙を突いて、『23日に我が家で感謝祭のホームパーティをするの。良かったら、来ない?』と誘う。
断ってくれれば、カレンに言い訳ができる。
シャロンの取り巻きのジェインは不審そうな目を向けてくるが、シャロンはニッコリと微笑んだ。
『いいわよ。もちろん、みんなを誘ってくれたのよね?』とシャロンは言って周囲を見回す。
ワタシが『当然だ』と頷くと、シャロンはジェインたちに耳打ちをした。
それを聞いたジェインたちは急に態度を変え、薄気味悪い笑顔になった。
ワタシは詳しい日時や場所を伝え、その場を離れる。
ワタシの頭の中では、これでカレンとの約束を果たせて自慢ができるということしか浮かんでいなかった。
††††† 登場人物紹介 †††††
キャシー・フランクリン・・・14歳。G8。今年7月に来日した。それ以来空手を習っている。180 cm台後半の長身で運動能力は抜群。
日野可恋・・・中学2年生。空手のメンターだけど、パパやママやリサは空手以外のこともカレンの言うことを聞くようにと言う。カレンは悪魔だから、みんなを
日々木陽稲・・・中学2年生。ヒーナは優しい。カレンもヒーナを見習うべきだ。
リサ・フランクリン・・・高校2年生。姉。日本の高校に通っている。最近、勉強しろとうるさく言ってくるようになった。
カトリーヌ・エイベア・・・G6。アフリカ系フランス人の少女。日本に来て2年程度だそうだが日本語も少し話せるそうだ。
リナ・マクマイケル・・・G6。白人の美少女。母親が日本人と再婚して、日本で暮らすようになったらしい。
シャロン・アトウォーター・・・G8。クラスの女子の黒人グループのボス。
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