第10話 守るべき力

「……!?」

「どうした兄者?」

「とてつもない力を感じる…ヤバイのが動き始めたな。」

「それ、あたし達より強いのか?」

「あぁ、間違いなく俺達よりも高いな。それよりも問題なのが…」

「秀次のことだろ?」

「奴の感情は最高点まで達した。このままでは危ない。」

「じゃあ、いっちょ行ってみる?」

「そうだな。行くか。」


ー街ー


僕は以前覇速に言われたことがどうにも気掛かりで仕方がなかった。

「お兄ちゃん、私もう寝るね。」

「あぁ…お休み…」

気づけば夜も遅くなっていた。僕も眠ろうとしたが、これがかえって眠れない…しばらく時間が経った後、僕は美子が寝たのを見計らい、夜の暗い街の通りへと一人駆け出して行った。


ー街の通りー


「強くなる…か…」

今までの人生、力が欲しいなんて一度も思ったことなんてなかった。長いこと妹二人の面倒を見てはきたが、ここ最近で二人はかなり成長した…一方の僕は二人に助けられてばかりで戦力になっていない…兄である僕が守らなくちゃいけないのに、守られてちゃ意味がないじゃないか…!

コツ…コツ…

向こうから下駄を踏み鳴らす音が聞こえる。しかも僕のいる方向へと段々近づいて来ているようだ。

「むっ…?」

現れたのは白髪を長く伸ばした青年…通りすがりの僕を見るなり、何か言いたそうだ。

「あの…僕に何か…?」

「悩んでいるのか?少年。」

ズバリ言い当てられた…もしかするとこの人も妖怪なのかもしれない。酒王や酒殿と同じような感じの…

「悩みがあったら俺が聞いてやろう。こんなところで歩くのも危ないからな。」

「あっ、はい…」

会ったばかりだけど何故かこの人は信用出来る。僕が勝手に判断しているんだろうけど、この人の包容力は誰が見ても一目で信用出来るものだった。

「実は僕…妹がいるんです。僕の妹は強くて、優しくて…僕は守られてばかりなんです。」

「妹か…でもそのことをすぐ言えるなんて、妹思いの優しい兄だな。」

「両親がいなくて、僕にとっては妹だけが唯一の肉親なんです。だから僕は…「力」が欲しいんです!妹を守れる力が…!」

ピタッ…

急に青年は足取りを止め、まっすぐ僕の顔を見つめた。

「よし、俺が力を与えてやろう。」

「ほ、本当ですか!?」

すると青年はかがんで僕の額に手を置いた…

「我が力、天に値する。その力、汝に与えん。」

ドクッ…!!

「うっ…!?うぁ……」

急に激しい頭痛が僕を襲い、そのまま僕は……倒…れて……

「良い表情をしているな、少年。思うまま存分にその憎悪などを放つがよい。」


ー翌日ー


「ん……」

朝日の光で私は目覚めた。こんな綺麗な朝を見たのは久々だ。

「あれ…?お兄ちゃん…?」

いつも私の隣で寝てるはずのお兄ちゃんがいない…もしかしたら街に出てるのかな?


ー数十分後ー


「いないな…」

街のいたるところを探したつもりだが見つからない…本当にどこ行っちゃったんだろお兄ちゃん…

『今日は仕事を休んで兄様を待った方が良いわね。』

「そうだね、きっとすぐ帰ってくるよ。」

心の中の玲子ちゃんにそう言い聞かせて、私はお兄ちゃんの帰りを待った。


ー夜間ー


「お兄ちゃん…?」

暗い夜の街からお兄ちゃんらしき人影が見える。いや、あの人影は間違いなくお兄ちゃんだ!

「お兄ちゃん!今までどこ行っていたの!?」

私はお兄ちゃんに近づいて怪我などしていないか確認しようとした瞬間…

カチャ…シュバッ!

「僕に…触るな…!!」

いきなり刀を突きつけられ、思わず腰を抜かしそうになる。

「ど、どうしたのお兄ちゃん?何か変だよ…?」

『美子…今の兄様は何か強い力で動かされている!外部からの影響を受けたとしか言い様がない!』

「そんな…!!」

心での会話に目もくれずにお兄ちゃんは次から次へと刀による攻撃を繰り出してくる…

『今は兄様と戦うしかない…!』

「お兄ちゃんとなんて戦えないよ!」

『大丈夫、私に任せて。』

「……分かった…!」

玲子ちゃんとの交渉が成立し、私の人格は心の中に仕舞われ、玲子ちゃんの人格を表へと出す。

カチャ…

「兄様!攻撃をやめて!」

「黙れッ!!僕は強くなったんだ!!お前達よりも…ずっと!!」

ガキィン!!

「何故こんな風に!?兄様はそんな人ではなかったはずよ!!」

「そうやって僕を影で笑っていたんだろ!?能力も何も無い弱い僕を笑っていたんだろ!?」

兄様は裏でそんなことを思っていたなんて…気づけなかった私はなんて無知なんだ…!

「兄様は弱くなんかない!!」

「信じるものか…今更そんなことを言っても無駄だ!!」

ガチャンッ!!

「小さい時から二つの人格を持つ私達を見てくれたのは兄様よ…そんな兄様が弱いはずない!!」

「うるさい…!!黙れェェェ!!!」

力任せに刀を振り回す兄様は私一人では止めようが無い…もう優しい兄様には戻れないの…!?

「そこまでだ。」

「……っ!?」

私の目の前に飛び出てきたのは前に私達を鍛えてくれた酒王と酒殿だった。

「やっほ!また会ったね!」

「酒殿、まずは目の前の奴を見ろ。」

兄の酒王に言われ、酒殿は兄様の方を向く。

「あらら…ありゃ結構飲み込まれちゃってるねぇ…」

「兄様は何故あんな状態に…!?」

「恐らくだが、今の彼は何者かによって感情の赴くままに暴れている。助けるにはやはり戦うしかなさそうだな。」

「そんな……」

何者かによって感情をやられてるなんて…それでも…やっぱり兄様とは戦えない…!!

「辛かったな。でももう大丈夫だ。後は俺達に任せろ。」

「酒王さん…」

「戦いたくない気持ち、分かるよ…たった一人の「家族」とやり合うほど残酷なものはないからな…」

私の前に立ち、構えを取る二人…

「さっきからごちゃごちゃと…お前達も僕を笑いに来たのかぁぁぁ!!!」

「すまない、少々手荒なマネをさせてもらうぞ。」

ヒュッ…ドンッ!!

「ぐっ!?…」

兄様の突進を避け、首筋に手刀を当てた…?そしてそのまま倒れてしまった…

「兄様!!」

「安心しろ、ちょっと気絶してるだけだ。これで憎悪などが収まればいいんだが…」


「あらら…俺の手下をこんなにしちゃったのはどこのどいつかな?」


「誰だ…?」

突如現れた長い白髪を揺らしている男。一体どこから来たの…!?

「兄様をこんな姿にさせたのはあなたなの!?」

「そう、そいつの感情をくすぐったのは俺だ。いやぁ…面白いものを見せてもらったよ。」

「よくも兄様を…!!許さない!!」

「待てっ!感情的になってはダメだ!」

「はぁぁぁぁ!!!」

酒王の静止も聞かず、私はただ感情のあまりに向かって行った。

「良い感情表現だ。だがその男ほどでは無いな。緑姫、出番だ!」

「はっ。」

横からさらに現れた謎の女に阻まれ、足を止めてしまう…

「樹術・小木層。」

メキメキ……

「何…これ…!?」

地面から生えた小さな樹木に手足を絡まれて身動きが取れない!

「上出来だ、緑姫。」

「お褒めにあずかり光栄です。」

協力者がいるなんて…!早くこの樹木を解かなければ…!

「くっ…うぅ…」

だめ…ほどこうとすればするほど余計に締め付けられる…!

「夜双様、この娘とそこの妖怪はどうしましょうか。」

「放っておけ。大衆の目に触れられたら面倒だからな。」

「承知致しました。」

この二人、逃がすほど自分達に余裕があるのか…!?

「まっ…待てっ!」

「決着なら数日後に着けようぜ。小娘さん。」

「逃がすか!」

ブゥン…

酒王の拳もむなしく、夜双と呼ばれる男は消えた。

メキメキ…

「ぐっ…!はぁ…はぁ…」

緑姫がいなくなったせいか私を縛り付けていた樹木は地面に戻り、ようやく体が解放されると同時に私の人格は美子の人格に戻っていた。

「大丈夫か?美子。」

「ありがとう…酒王さん、酒殿さん…」

「今日は兄と共にゆっくり休むんだ。夜双は恐ろしく強い妖怪…決着の時までに体を整えておくと良い。」

「はい…」

酒王さんと酒殿さんは私とお兄ちゃんを担ぎながら宿屋まで運んでくれた…お兄ちゃん、早く元気になって…!

続く。



告予回次

「今一度、決着を着けよう。」


「緑姫、頼んだぞ。」


「私は夜双様のためなら死んでも本望ッ!!」

次回「自然の忠誠」

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