第9話 高速の盗人

「あれが妖怪退治屋の兄妹か。」

ゴソッ…

「あの刀、僕が手に入れてみせる…」



「にしても玲子があの能力を使いこなしてるなんてね。」

「でも使った後に冷たさが体に残るから戻った時、ちょっと寒いんだよね。」

今日はあまり人が来ない…その間を埋めるように僕は玲子の能力について話をしていた。

「玲子ちゃんもどんどんかっこ良くなっていくよね!」

「そうだね。凄く強くなったし。」

そんなことを話していると、僕達の前に一人の少年が座った。

「あの…相談があるのですが…」

年齢は僕と同じくらいだろうか?それくらいの年の人が依頼してくれるなんて、一体どんな事件なんだろう?

「はい、承りま…」

瞬きをしたその一瞬、目の前にいた少年は消えた…だがそれ以上に驚くべき事が起こった…

「あれ!?刀が抜かれてる!?」

「私のも無いよ!?」

僕達は一目で分かった。盗まれたのだと…

「でもどうやって盗んだの?私達が目の前にいた中で一体どうやって…?」

「恐らく、「高速移動」で刀だけ抜き取ったんだ…そうなるとあの少年は妖怪か…」

「追いかけようよ!確かあの子は山の方向に…」

「分かった、行こう!」


ー山道ー


「いないなぁ…」

かれこれ2時間以上も探してはいるものの、いっこうに見つからない。諦めかけたその時…


「探しているのはこの刀かい?」


「!?」

僕達の側にあった大木にいつの間にかあの少年が座っている。そしてその手には二本の刀が握られていた。

「あっ!私達の刀!」

「それは僕達のなんだ!刀を返せ!」

「えぇ~…せっかく手に入れたのになぁ。じゃあ、僕と戦って勝ったら良いよ。でもただ返して戦うんじゃ面白く無いなぁ…」

やっぱりそう来るのか…!

「じゃあこうしよう。僕と戦うのは一人。それとお互いの刀を交換して戦う…あ、あと対戦相手も僕が決めるね。」

「…分かった。それで、どっちと戦うんだ?」

「そっちの女の子と戦うよ。何か君弱そうだし。」

「(僕は…弱いのか…?)」

その言葉が僕の胸に深く突き刺さった気がしてならない…僕が弱いなんて、そう考えたくなかったんだ…

カチャ…

「お兄ちゃんの刀で戦うなんて初めてだよ。何か少し重い気がするけど…」

奴が使うのは美子の刀…素早く切れ味が高い蝶月輪は奴のスピードで放たれると驚異となるな…

「戦う前に、まだ僕の名前を言ってなかったね。僕は盗賊妖怪の「覇速(はそく)」だ。」

「私は凛条美子。今はね…」

「今は…?」

カチャン…

美子は刀を引き抜いて玲子の人格を表に出した。

「私がもう一人の人格である凛条玲子。あなたと戦うのはこの私よ。」

「ふぅん、面白いじゃん。じゃあやるか!」

お互いに構えて刀を交えた…その音だけが山の中に響いた…




ササッ…

「一体どこに…?」

相手の速度は視認出来ない…これで斬り刻まれたら流石の私でもたまったものじゃない…!

「そこだねっ!!」

ガキガキガキィン!!

「ぐっ…!?」

さらに相手の刀は私の蝶月輪…切れ味も生半可なものではないことは使っている私が一番良く知っている!

「ほらほら!見切らなきゃ僕に攻撃なんて出来ないよ!」

見切るか…良いことを教えてもらった気がする…!

シュシュシュ…

目を閉じて精神を研ぎ澄ます。私と美子、二人分の精神を集中させれば、きっと攻撃が届くはず!

シュシュ…

「そこっ!!」

ギャインッ!!

「ぬっ!?」

よし…とりあえず一撃食らわせられた…

「やるね…流石はれっきとした剣士だけのことはある…」

「あなたとは経験というものが違うの。」

所詮は高速移動が強いだけの妖怪。刀の鍛練を積んでないのは動きで丸見えだ。

「そろそろトドメを……!?」

雪女の力を使おうと試みたが、上手く冷気が刀に渡らない…!

「冷気が…届かない!?」

「忘れたの?君の刀は僕の手元だよ。」

「しまった…!」

今私が使っているのは兄様の刀…!そもそもの材質が違うためか、冷気が届かない!

「形勢逆転…かな?」

ササッ…

またも彼は高速移動を始め、私の目の前から消えた。

「玲子!僕の刀なら地面に擦り付けて炎を発火させることが出来るはずだ!」

「分かった…!」

シュイン…

だがいくら地面に強く擦り付けても炎が発火する様子は全く感じない…

「発火もしないなんて…!」

「立ちすくんでどうしたのかな!?」

ガキガキガキィン!!

「きゃあっ!!」

「玲子ーーー!!」

なんとか耐えられたが…次に食らったら命まで持つかどうか…

「(一体どうすれば…!?)」

そうか…!自分から発火させるのが無理なら、「相手から発火」させればいいのか!

ササッ…

「トドメだ!!」

ガキィンッ!!ボシュウ!!

「何っ!?」

「やった…!発火した!」

そのまま覇速の腹に炎を纏わせた刀で斬り裂いた。

「ぐぉぉ…妖怪で一番速い足を持つ……この…僕が……」

フシュゥゥゥ……

炎と同時に斬られた覇速の体は砂のように飛び散り、風に乗って消えていった…

「ふぅ…お疲れ様。玲子ちゃん。」

妖怪との戦闘が終わった私は自然と美子としての人格へと戻った。




「馴れない刀なのに機転を利かせて勝つなんて、やっぱり美子と玲子は凄いなぁ。僕なんかより……」

ふとさっきの覇速の言葉が頭をよぎった。


『何か君弱そうだし。』


弱い…僕が…こんなんじゃ美子と玲子も守っていけない…!僕にも「力」が欲しい…二人を守れる力が…!

「どうしたの…?お兄ちゃん…?」

「あぁいや、何でもないよ。」

お互いに刀を取り返した僕達は元の街へと戻っていった。僕の心に「何か」を引っ掻けたまま…


ー森林の寺小屋ー


「夜双(やそう)様、今夜のご予定は。」

「緑姫(りょくき)、逆にお前は何がしたい?」

「いえ…私は特に…」

「そうか…それはそうと…」

「はい。」

「今こそ、やるべきではないのか?百鬼夜行を。」

「遂に、実行されるのですね。この時の為にどれほどのお時間をかけたことか…」

「時は満ちた。今こそ百鬼夜行でこの地を妖怪が住まう地にする。準備だ、緑姫。」

「全ては、夜双様の為に。」

続く。



告予回次

「僕は…「力」が欲しいんです!」


「良い表情をしているな、少年。思うまま存分にその憎悪などを放つがよい。」 


「お兄ちゃんとなんて戦えないよ!!」

次回「守るべき力」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る