第7話 妖怪と令嬢

「何か今日スーツ姿の人多いね。」

言われてみれば確かに今日はスーツ姿の人が多い。別に今の時代スーツ姿の人を見るのは珍しい事じゃないが…

「…ん?」

僕達の前に豪華な馬車が置かれた…というかこんなところに馬車って…

「御免くださいまし。」

中から11歳くらいの女の子が出てきた。見るからにお嬢様という出で立ち、それに取り巻きの男性を連れている…

「ここは妖怪に関する仕事を承っているのですわね?」

「あ、はい。僕達がそうです。」

「なら、御影(みかげ)財閥直々の頼み…聞いてくれる?」

「分かりました。お聞きましょう。」

お嬢様らしいといえばお嬢様らしいが、彼女の寛大な態度に僕も美子も顔をしかめそうになる。

「では…是非、わたくしに可愛い妖怪をご用意してくださいまし!」

「「妖怪を!?」」

それはつまり…妖怪を捕まえて連れて来いってことなのか!?

「どうする?美子…」

僕は彼女に聞こえないように美子の耳元で話した。

「えぇ~…無闇に妖怪を連れてくのは可哀想だけど…相手が財閥なだけに怖いし…」

ここは話だけ聞いておこう…後は依頼遂行中にどうにかするしかないな…

「了解しました。妖怪は僕達がご用意しましょう。」

「意外と話分かってくれるのですわね。ありがとう。また来ますわ。」

取り巻きの男性を連れて依頼人のお嬢様は去っていった…残された僕達に静かな沈黙がしばらく続いた…

「あー何か腹立つ!!あのお嬢様!!」

「まぁまぁ落ち着いてよ美子。」

珍しく美子が感情的だ…あのお嬢様の態度はそれほど美子の逆鱗に触れたのだろうか?

「玲子ちゃんも言ってるよ!「私もあの依頼は無いと思う」って!」

「いつの間に玲子と話したのか!?」

話したというよりかは聞いたに近いか…?

「にしても可愛い妖怪か…」

「あんまり協力したくないけど、可愛い妖怪ならあの子じゃない?」

「あの子?」

「前に助けた山兎ちゃん!ちっちゃくて凄い可愛いでしょ?」

確かに可愛いには可愛いけど、話聞いてくれるかどうか怪しいところ…

「仕方ない。山兎の所へ行こう。」


ー山奥ー


「あ、いた。」

「お前ら!久しぶりじゃな!」

相変わらず小さい体でも上から目線の態度は変わってないみたいだ。あのお嬢様に比べたらまだマシか…

「遊んでるところ悪いんだけど、話を聞いてくれる?」

「何じゃ?話だけなら聞いてくれても構わんぞ。」

良かった…これで聞いてくれなかったら話にならないからなぁ…

「実は、今回の仕事の依頼で「可愛い妖怪を連れて来い」ってお嬢様の人から言われてね。一緒に来てくれないか?」

「な、何故そのようなことを妾がやらなければいかんのじゃ!?」

そりゃそんな反応にもなるよね…

「僕達だってやりたくないよ。でも相手はお嬢様だから断ったら何されるか分からないし…」

「嫌じゃぁぁぁ!!!妾はそんな下道の元へと行かぬぞぉぉぉぉ!!!」

す…凄い剣幕で断られた…

「そもそも!!お前らがしっかり断っておけば良いものを!!妾妖怪は飼われるものではない!!そこを良く考えるのじゃ!!」

「そう…だよね…ごめん……」

山兎に言われて分かった。妖怪は物なんかじゃない…妖怪だって生きてるんだから、飼いものにしちゃいけないんだ…!

「分かったならさっさと去れ!そのお嬢様の奴に妖怪の気持ちを伝えて来るのじゃ!分かったな!?」

「うん…!ちょっと一発言ってくるよ!」

「うむ、その意気じゃ!!」

これは良い叱られ方をされた…こうやって叱られたのは何年ぶりなんだろうな…


ー翌日ー


「さぁ、可愛い妖怪のご用意は出来まして?」

「お言葉ですが、ご用意は出来ません。」

「何ですって?あの時あなたは自分で「ご用意します」と言ったのよ!?それを断るってどういうつもり!?」

「妖怪だって感情があって生きてるのです!妖怪は飼いものではないのです!」

僕は全力で断った。これで理解してくれなかったら僕達は終わり…

「はぁ…もういいわ。行きましょう。」

取り巻きの男性を連れて馬車に乗り帰っていった。理解したのかどうかは分からないが、あっさりと帰っていってくれたみたいだ。

「良かったね、お兄ちゃん。」

「理解してくれてるか分からないけど、何事も無く帰ってくれて良かったよ。」

山兎のおかげで僕達は改めて妖怪との関係を考えさせられた。今度は山兎に助けられたなぁ…

続く。



告予回次

「温泉なんて入るの久々だよ~!」


「へぇ…あんた、中に「もう一人」いるね。」

「な、何でそれを?」


「これも何かの縁だ。俺達が特訓に付き合おう。」

次回「湯けむりの兄妹」

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