第5話 冷たき子(前編)
「ねぇ美子。」
「何?お兄ちゃん。」
「この前のことについて玲子と話したいことがあるんだ。」
僕はこの前のことがずっと気になって仕方なかった。あの冷たい手のことについて、玲子なら知っていると思って美子に頼んだ。
「良いよ。ちょっと待っててね…」
カチャ…
腰の刀を引き抜いて玲子の人格を表に出す。妖怪との戦闘以外でも刀を引き抜けば自然と玲子の人格が表に現れるらしい。
「兄様、私に用とは?」
「玲子、この前羅刹を倒した後にお前の手が冷たくなっていたんだ。何かこれについて心当たりはないか?」
「私には何も見当は無いわ。」
見当は無いと言いながらも玲子は少し動揺している。
「どうかしたの?」
「いえ…何でもない。じゃあ私はこれで。」
スッ…カチャン。
「うーん、玲子ちゃんでも見当が無いならあれは何だったんだろうね。」
「やっぱり気のせいだったかもしれない。ありがとう美子、玲子。」
ーお昼過ぎー
「た、助けてくれ!村が…私の村が…!」
「どうかされたのですか?」
僕達に駆け込んで来た壮年の男性。余程走って来たのか息をかなり切らしている。
「村が…村一つが雪に覆われて…」
「村一つが…雪に覆われた…!?」
何故そんなことが!?今の季節は春…しかも夏に差し掛かっている時期だ…そんな時期に雪が降るなんてどう考えてもあり得ない!!
「頼む…私の村を…救ってくれ…」
男性はそれだけ言い残し、気を失ってしまった。
「よく分からないけど…行こう!」
「うん!」
気を失った男性はすぐさま病院に送られた。幸いこの男性が住んでいる村は街の近くにあったので直ぐに向かえた…
ー村ー
村を見た時に僕達は唖然とした。あの男性の言う通り、この村一つだけが雪に覆われている…それも大雪だ…
「何でこんな…たった一夜でこうなるのか…?」
「それどころか村の人達も外にいない…お兄ちゃん、これは妖怪の仕業だよ!」
「うん、間違いない…確かめよう!」
僕達は村の人々に話を聞いた。聞いたところによると、雪に覆われる前の日に「着物を着た少女が村に現れた」とのこと。そして僕達はその少女を探すべく、村から少し離れた田んぼ道にいた。
「着物を着た少女…これが本当だとするなら…この元凶となった妖怪は…」
「雪女だ。って言いたいんでしょ?」
「!?」
後ろから聞こえた声に驚いた。見ると声の主は村人が言っていた着物を着た少女そのままだったのだ。
「驚かせちゃってごめんなさいね。私は雪女の雫(しずく)。」
「村を大雪にしたのはお前なのか?」
「あら、失礼しちゃうわね。私は雪女としての仕事をしたまでよ。」
「やっぱり…お前が…!」
チャキ…
雫がやったことは今はっきりと分かった…後は退治するのみ!!
「もう…何で男の子はこんなに血の気が多いの?まぁいいや。丁度刀で戦いたかったから良いんだけど。」
ガキガキガキ……バリィン!!
「妖刀・氷雪花(ひょうせっか)。」
妖刀!?雪女が妖刀を使うなど聞いたことがないぞ!!
「兄様、炎で前線をお願い。」
「分かった!」
炎は氷を溶かす…物理的な相性は抜群だ。僕が炎で攻めている間に玲子は居合いを溜めるということか…
「何かあの子の表情…どこかで…」
「喋っている余裕は無いぞ!!」
シュイン…ボシュウ!!
「猛華刀…業火葬!!」
炎を纏った刀なら、奴を焼き斬ることが出来る!
「どりゃあああああっ!!!」
ガキィン!!
「炎なら私を溶かせると思った?」
「何っ!?」
バキバキバキ…
バカな…!?炎が…凍らされている!?
「炎なら相性が良いと思ったみたいだけど残念ね。私の冷気は炎でさえも凍らせちゃうから。」
「くっ……」
結局炎は使い物にならないということか…!
「玲子!気を付けろ!」
「玲子…!?」
その名前を聞き、雫は動きを止めた。
「玲子…?本当に玲子なの…?」
「な、何で玲子のことを知っているんだ!」
「知っているも何も、玲子は私の「妹」だからよ!!」
「えっ…!?」
玲子が…雪女の妹…!?
「ふざけた真似を!私はあなたのことなんて知らない!」
「そうだ!玲子は僕の妹なんだぞ!」
「やはり…記憶が無いのね。いいわ、教えてあげる。玲子が私の妹だってことを…」
そう言うと雫は僕達に驚くべき真実を突き付ける…
「玲子…あなたは一度、「死んでいる」のよ!」
「死んで…いるって…」
「そうよ。私と玲子は雪女の姉妹として雪山で生まれた…だけど、生まれてすぐに家が雪崩に巻き込まれて私以外全員死んだ。恐らく玲子の魂はその娘に憑いてしまった…」
まさか…美子が生まれつき二重人格というのは…!!
「じゃあ私は…魂が美子の体に憑いているから二重人格なの…!?」
「どうやら年月が経過して魂も一緒に成長したみたいね。今の玲子は一人の人間として生まれ変わったも同然…」
「そんな…玲子が…」
僕はこれまでにない絶望感を味わった…今までずっと一緒に過ごしてきた大切な家族が今ここで奪われたような気がしたから…
「うっ…うぅ…」
「玲子…!?」
玲子が頭を抱えて苦しんでいる…一体何が…!?
「全て…思い出してしまったの…兄様…」
「玲子…まさか記憶が…!」
「雪女であったこと、思い出してしまったの…私は…私は…」
その場で泣き崩れる玲子の背中を撫でることしか今の僕には出来なかった…僕にも何をすればいいのか分からない…分からないんだ!!
「全て思い出したなら、私の元に帰って来て…玲子。」
「ふざけるな!!玲子は…玲子は僕の…」
「私の妹よ!!」
突然の気迫に押され、僕はもう力に身を任せて突進していった。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「もう黙って。あなたは兄じゃないんだから。」
スッ…カチャン。
ピッ…
「ぐぁ…あ…」
バタッ…
「兄様ーーーーーっ!!!」
「この男は預かっておくわ。私と来るか、一日だけ考える時間をあげる。答えが無かったら…どうなるかは分かるわね?」
「兄様に手を出したら…私が許さない!」
顔の涙を拭いながら、玲子は街へと戻っていった。来るべき明日への判断を自身で下すために……
続く。
告予回次
「玲子ちゃんは玲子ちゃん…それだけだよ。」
「さぁ、答えを聞かせて頂戴?」
「たとえ前世が妖怪でも!!私は兄様の妹よ!!」
次回「冷たき子(後編)」
「私を…妹として認めてくれる…?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます