第3話 桜の花言葉は
「あ、あのー…」
緊張した顔の男性が僕達の方へと近づいて来た。
「ここは妖怪に関する仕事を受けているんですよね?」
「はい。妖怪に関しての依頼なら何でも受けますよ。」
依頼人の男性は話すのをためらうような素振りを見せたが、思いきって僕達に伝えた。
「実は僕…妖怪に恋をしてしまって…一目惚れした妖怪と話がしたいんです。」
「妖怪と…ですか?」
正直驚いた…妖怪退治屋を営業してきて初めてこういった依頼が来たのだから。
「その妖怪はどのような姿でしたか?」
「桜色の和装で遠くからでも分かる美しさでした。そして彼女の周りの木は綺麗な桜へと変わっていました。」
確かにこれだけ聞くと物凄く美しいことに違いは無い。世の中には美しい妖怪も多くいると聞くけど…
「分かりました。その依頼引き受けましょう。まずは僕達がその妖怪と話をしてきますので後日連絡致します。」
「ありがとう…ございます…こんな僕のために…」
僕は机に「依頼遂行中」の札を出して目的地へと向かった。
ー夜の草原ー
依頼人が妖怪を見たという草原に着いた。丸みをおびたこの草原はそよ風が心地良い。
「お兄ちゃん、何かあそこだけ凄い光が出ていない?」
美子の指差す方向には桃色の光が溢れだしていた。恐らくあそこに妖怪がいるのかもしれない…
「よし、あの光を辿って行こう。」
ー数分後ー
目的の妖怪はそこにいた。桜に包まれながら立つその姿は確かに誰もが見惚れてしまうような美しさだった。
「すみません。」
「あなたは…?」
「僕達は妖怪に関する仕事をしている者です。僕は凛条秀次、隣が妹の美子です。」
「私は夜桜姫(やおうき)。私に何か用です…?」
人間と何ら変わらない姿で夜桜姫は僕達の方へと振り向く。
「夜桜姫さん、あなたに話があるんです。僕達はある男性からの依頼であなたに会いに来ました。その男性は「あなたと話がしたい」言っていました。」
「何…?」
「どうかお願いします。男性と会ってくれませんか?」
「でも私…男性の方とお話なんてしたことが無くて…」
「大丈夫です。僕達も協力しますので。」
「分かりました。少し話してみます。」
僕達は一度街の方へと戻り、依頼人の男性を呼ぶことにした。
ー数十分後ー
「夜桜姫さん、連れてきました。」
「あなたが私に…?」
「実は僕…あなたのことをずっと前から見掛けてて…それであなたのことが気になっていたんです。」
依頼人は恥ずかしながら自分が会いに来た理由を話し始めた。
「……!?」
「どうしたの?」
「何か強烈な妖気を感じる…!」
間違いない…!この妖気は近いぞ…!
「夜桜姫さん、僕はあなたのことが…」
シュバッ!!
ガキィン!!
「妖怪!?」
茂みから突如出てきた妖怪…それがさっき僕が感じた妖気の正体か!!
「二人は下がっててください!!ここは僕達が!!」
「分かりました!」
長い薙刀を持った女性の妖怪…額には鬼の角が生えている。
「お前は…夜叉(やしゃ)!?」
「ほう、妾の名を知っているか。流石、刀を持っているだけのことはある…」
「何故お前がここに!?」
「あの二人の魂…何とも美しい輝きを放つではないか。妾は二人の魂がどうしようもなく欲しいだけだ。」
人間だけでは無く…他の妖怪の魂までも欲しいと言うのか!?
「行くわ、兄様。」
美子の人格は消え、既に人格は玲子の状態だ。
「行こう!玲子!二人の時間を奪わせはしない!!」
「ならば…力付くで奪うまで!!」
シュバッ!!
相手の薙刀は射程が刀より長い。下手をすれば一瞬でやられてしまう!
シュイン…!
僕は放れて地面に猛華刀を擦り付けて一筋の炎を飛ばす。
「天地爆葬!!」
スドドドーン!!!
「温い。全くもって温いぞ。」
「爆発が効かない!?」
バッ!!
「蝶月輪…」
玲子は天高く跳躍して上空から奇襲を繰り出す。
「月ノ美兎。」
カチャン。ザシュッ!!
「ぐっ…お主、やるではないか…」
まだだ…攻撃を食らったとはいえ傷は浅い…!
シュイン…ボシュッ!!
「猛華刀…業火葬!!」
僕は得意技である業火葬を繰り出す。
「ていやぁぁぁ!!」
ガキィン!!
「妾にそんな炎が通じるとでも思ったか?」
「炎を通すなんて僕は言っていない!」
「何っ!?」
カチャン…
僕は薙刀で塞がれている猛華刀を即座に峰の部分を前にした。
「硬質刃!!」
ドスッ!!
「ぐはっ!?なん…だと…!?」
峰による硬質刃を腹に食らい、夜叉はよろけた。今なら行けるぞ…!
「玲子!頼む!」
「分かってるわ、兄様。」
スッ……
「蝶月輪…」
カチャン。
「月花閃。」
「ぐ…あ…」
玲子の一撃を食らい、夜叉はその場に倒れこんだ。今回は我ながら良い連携だったかな。
「あの…夜桜姫さん。実は僕…あなたのことが好きです。どうか、あなたの答えを聞かせて下さい。」
夜叉を倒した後、依頼人はついに自分の思いを夜桜姫に伝えた。
「でも私は…私は妖怪なのですよ?こんな私で良いんですか…?」
「妖怪か人間かなんて関係ありません!僕はあなた自身を好きになったんですから…!」
「ありがとう…では私自身の答えを言います…お付き合い、よろしくお願いしますね。」
「やった!あっ…」
美子は結ばれた嬉しさのあまり、つい声に出てしまったようだ。それを皆が笑う…こんなに楽しいことは僕も人生で初めてかもしれない。
「お二人共…今日はありがとうございました!おかげで僕は彼女と…」
「お礼は良いですよ。僕達は仕事の依頼をしたまでですから。」
「また機会があれば、彼女と一緒に会いに行ってもよろしいでしょうか?」
「はい!僕達はいつでも待ってますから!」
依頼を達成し街に戻る際、後ろを振り返ると二人が満月を見て手を取り合っていた。桜の木に囲まれながら手を取り合う姿はこの世で一番美しい風景に思えた…
「あっ美子、服に桜が着いてる。」
「あ、ほんとだ。」
美子の服に着いていた桜の花びらを僕は指でつまんで取ってあげた。
「そういえば…桜の花言葉は「美しい者」って意味らしいよ。」
「そうなの?じゃあ服に桜が着いてた私は美しいのかな?」
どういう解釈なんだ…それ…
「まぁ美子は可愛いらしいからね。」
「やった!ありがとう!お兄ちゃん!」
続く。
告予回次
「通り魔多数…夜のひとり歩きには気を付けろ…」
「俺は一族の歴史に伝説を残すッ!!」
「何か美子の手、冷たくないか…?」
次回「歴史に刻む」
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