第2話 色男にご注意を

「すみません!!妖怪退治屋さん!!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」

僕達の前に来た依頼人の女性。いきなり駆け込んで来られても…

「何があったんですか?ご説明してください!」

「助けてください!私の住んでいる村の女性が皆消えてしまったんです!」

「「消えた!?」」

女性の一人や二人なら消えても何らおかしくないとは思う…だけど村全体の女性が消えてしまったとなると…妖怪に襲われたか…?

「私の住んでいる村は女性の人口が多いのですが、一夜にして全員消えてしまって…私は街の方へ出かけていて大丈夫だったので…」

「何か見知らぬ人を見たという情報はありましたか?」

「確か…「長くて白い髪の男」が村にいたとか…」

長くて白い髪の男…そいつが妖怪で人間に化けている可能性が高いか?

「分かりました。では今夜あなたの住む村に出向きます。」

「お願いします!私の村をどうか…!」

僕はいつも通り机の上に「依頼遂行中」の札を出し、依頼人の女性が住む村へと向かった。


ー村ー


「美子、ここは手分けして見張ろう。僕は北側を見張る。美子は南側を見張ってて。」

「分かった!」

二人で分担すれば、どちらか片方に妖怪が現れてもすぐに駆けつけられる。この村は一本道が多いみたいだし。

「よし…行くぞ!」


ー数十分後ー


ヒュオオオオ…

「ん…?」

美子の前に風と共に現れた一人の男。その男は依頼人が言っていた「長くて白い髪の男」その者だった。

「あなたは誰…?」

男はゆっくりと美子に近づき、顔をぐっと近づけた。

「そう目を張るな。小生はそなたに何もせん。」

「あなたまさか…妖怪!?」

「さぁ、どうだろうか。小生のことをそう呼ぶ奴もおるが…小生はそういう呼ばれ方はあまり好まない。」

男の古風な口調と惹かれるような整った容姿は絶妙に合っていた。遠目からでも分かるその美貌は見る者を魅了したに違いない。

「そなたは美しい…」

「うっ!……」

そう言われた途端、美子の目は虚ろになり、男に吸い寄せられるかのようにゆっくりと歩き始めた。

「これで…そなたも小生の仲間入りだ。」

風と共に、美子は男と消えていった。



「美子の方は大丈夫かな…」

僕は南側にいる美子の方へと歩いて行き、様子を見に行こうとした…だが行ったところ、美子の様子は見当たらない。

「あれ…美子!?どこにいるのー!?」

声を出しても返事が無い。まさか美子は妖怪に!?

ヒュオオオオ…

「そなた、探しているな。」

「誰だ!」

風と共にとてつもない美貌の男が現れた。

「そなたが探している娘はここだ。」

男は横に美子を出した。目は虚ろで呼び掛けに対して何も反応しない…

「まさか…!?「妖狐」なのか…!?」

「はて…さてはそなたは妖怪を相当知っているようだな。」

「やっぱり、妖狐なのか…!」

数多くの女性をその美貌で誘い、自身の仲間にしてしまうという妖怪…!早く助けなければ美子は完全に妖狐の仲間になってしまう!

「美子と玲子…妹を返せ!!」

「ほう、この娘はそなたの妹だったのか。ならば余計に返す訳にはいかんな。」

カチャン。

「お前を…斬る…!!」

猛華刀を鞘から引き抜き、戦闘態勢へと入る…この妖怪だけは許さない…!!

「頭に血が登ったか少年。小生とて武力を振るうことに抵抗は無い。」

ボシュッ…

「狐火。」

妖狐は掌から火の玉を数個出して僕の方へと飛ばす。

「狐火連弾。」

ズドドドドド!!!

「ぐっ…!」

こいつに炎が効くかどうか分からないけど、やるしかない!

スッ…ボシュウ!!

「猛華刀…業火葬!!」

一気に距離を詰めて炎を纏った刀を降り下ろす。

「はぁ!!」

ガキィン!!

「小生に炎は一切効かん。」

シュオッ…

「せいっ!!」

ボシュッ!!

「ぐっ…!!あぁぁぁぁぁ!!」

炎を無効化された刀を手で弾かれ、腹部に狐火の一撃を食らってしまった…焼けるような痛みが全身に渡る…!

「所詮この程度。敵では無いな。」

「くっ……!」

気力を振り絞ってどうにか立ち上がった。火が効かないなら…火を使わない技で!

カチャ…

固く作られた峰の方を前にして構える。不格好に見えるがこれも立派な技の一つだ。

「硬質刃…!」

バッ!!

「峰など、小生にとっては所詮なまくら同然。」

「でいやぁぁぁぁぁ!!」

力任せに一気に刀を降り下ろす!

スドンッ!!!

「ぬっ!!?」

よし!固い峰の攻撃は物理だから効いている!

「ぐぁ…!?」

これに当たればどんなに頭が固くても軽く脳震盪は起こす。

「よくも…小生の頭に…!」

妖狐は自分の頭を傷つけたことに怒りが沸いている。だが僕にとっては彼の傷のことなどどうでも良い。

「うっ!…」

「!?」

さっきの攻撃で妖狐にダメージが出たせいか、妖狐の催眠術が解けて美子が正気に戻った!

バッ!!

「何っ……!?」

「今だ!!美子、玲子!!」

スッ…カチャン。

「馬鹿な…!小生の完璧な術が…解けたという…のか……!?」

パサァァァ…

妖狐は小さな砂のようになり消えていった…一先ず美子と玲子が助かって良かった。

「えーと…今は美子と玲子どっちなの?」

「私だよ、お兄ちゃん。」

僕のことを「お兄ちゃん」と呼ぶのは美子の方だ。

「催眠術が解けて、あの妖怪にトドメを刺す時にだけ玲子ちゃんが出てきたけどね。」

確かに斬る時だけ顔がキリッとしてたような……

「これで今回の依頼は一件落着だね!お兄ちゃん!」

「うん、じゃあ依頼人に報告しに行こうか。」


ー翌日ー


「依頼は解決しました。今回に関してですが、妖怪の妖狐が女性達を催眠術で操っていました。妖狐は僕達が退治しましたのでもう大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます!村にも無事女性達が戻って来ました!」

「では今回はこれで。またのご来店を。」

「あ、ちょっと待って下さい!」

依頼人は去る前に何やらお菓子の入った箱を差し出した。

「依頼のお礼です。よかったら食べて下さい。」

「ありがとうございます。有り難く頂きますね。」

依頼人が村へ帰った後、貰ったお菓子の箱を開けた。中にはあんこの入った饅頭がちょうど四つ入っていた。

「美子、食べなよ。」

「私は一つでいいよ。」

「どうしたの?腹の調子でも悪い?」

「ううん、今回の依頼で私もお兄ちゃんに助けて貰ったからね。一つお兄ちゃんに譲るよ。」

僕が助けたからって…でもこうやって見ると美子はやっぱり優しい子だなと僕は思う。

「じゃあお言葉に甘えて。頂きます。」

あんこがぎっしり詰まった饅頭は甘くて少ししょっぱい味だった。そして、頂きますと言ったわりに美子の分一つを残しておいたのは内緒の話。

続く。



告予回次

「実は僕…妖怪に片想いをしてしまって…」

「妖怪と…ですか?」


「夜桜姫さん、あなたに話があるんです。」

「何…?」


「二人の時間を奪わせはしない!!」

次回「桜の花言葉は」

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