第1話 妖怪退治屋の兄妹
その夜、僕達は依頼した女性が住む村に出向き、一晩見張ることにした。妖怪は昼夜問わず活動する者もいれば、夜にしか活動しない妖怪も多い。今回の依頼内容から察するに夜を主として活動する妖怪だろう。
ー数時間後ー
ペチャッ…ペチャッ…
「美子…!この音は…!」
「依頼人が言っていた音に近いよ!」
ペッタンというよりかは粘着のあるような音だ。僕達は音の鳴る方向へと進むことにした。
「あっ!いた!」
「なんじゃお前達は!?」
ウシガエルなどよりも遥かに大きい蛙の上に小さい女の子ような姿で兎の耳を生やした妖怪がちょこんと乗っていた。
「君は山兎だよね?」
「ど、どうして妾の名を…!!」
「驚かないで聞いてほしいんだ。僕達は妖怪に関する仕事をしててね、この近くの村に住んでいる人達から依頼をされたんだ。近頃、夜中に騒音がするってね。」
「騒音って…もしやこの山蛙のことか!?」
この山蛙も歩く度にペチャペチャと足音を鳴らす。騒音の正体は山兎というよりも山蛙の仕業と見ていいのだが…何か引っ掛かる…
「君が人間に危害を加えないということは知ってるよ。ただ騒音を村で起こさないという約束はしてくれるかな?」
「フンッ!人間ごときが妾に命令するでない!妾の「遊び場」が無くなってしまったのだからな!」
「この子何かちょっと可愛い……」
ん?遊び場が無くなった?
「ちょっと待って、遊び場が無くなったから村に下りたってこと?」
「お前らに伝える義理など無いっ!ほら!さっさと出て……」
ギュルル…
「もしかして…お腹空いてるの?」
「うっ…」
僕は懐から美子と晩御飯用に買っておいた※シベリアを取り出した。
※羊羹(ようかん)をカステラで挟んだお菓子。
「今持ってる食べ物はこれしか無いけど、食べる?」
「仕方ない…ありがたく頂くとするのじゃ…」
シベリアの一切れを受け取ると、そのままモグモグと食べ始めた。
「それで、遊び場が無くなったってどういうことなの?」
「モグモグ…それは意地悪な鬼が…モグモグ…出てきて…モグモグ…妾の遊び場を…モグモグ…」
「食べ終わってから話そうよ…」
ー数分後ー
「妾の遊び場はこの山奥にあったんじゃ。それまでは村に下りてくることも無くて気ままに遊んでたんじゃが…」
「何者かにやられたの?」
「そうじゃ…ここらで強い鬼の妖怪が妾の遊び場を奪ったんじゃ!」
鬼の妖怪か…鬼には凶暴な者が多いからなぁ…
「分かった。今からその鬼をやっつけて来るよ!」
「お前ら、倒せるのか!?」
「言ったでしょ、僕達は妖怪に関する仕事をしてるって!」
「それなら…頼む…妾の遊び場を取り返してくれ…」
「君の遊び場は僕達が必ず取り戻してみせる!」
そう言い、僕達はさらに深い山奥へと足を運んだ…
ー山奥ー
「鬼は…君か?」
少しだけ広い場所に出ると、小さな小屋などがある。山兎はここを遊び場にしているみたいだった。だがその小屋の前に立つのは禍々しい妖気を放つ鬼だ。
「そうだ…俺が鬼。正確には「狂鬼」だ。」
「君が山兎の遊び場を奪ったのか!?」
「山兎…?あぁ…あのちっぽけな妖怪か。」
ちっぽけな妖怪…他の妖怪の居場所を奪っておいてそんなこと!
「行こう、お兄ちゃん!」
「うん!やろう!」
途端に美子の表情が変わる。出たか…美子の中に住むもう一人の「人格」が!
「これより先は全力であなたを斬る。」
「玲子!」
「兄様、前線をお願い。」
美子のもう一人の人格「玲子」が表に出ると、冷静でクールになる。戦闘は基本的に玲子が担当をしているようなものだ。
チャキ…
「俺、刀なら慣れてんだ。それでもやるのか?」
「ただの刀だと思わないでほしいね!」
僕の後ろで構えをとる玲子。玲子は一撃必殺の居合いを得意とする…一瞬の隙を作るためにまずは僕が前線でやらないと!
ボシュウ!!
「猛華刀…業火葬!!」
「刀に…火が!?」
僕の持つ刀「猛華刀」は火を起こしやすい材質で作られている。地面に擦り付けることによって僕の刀は火を纏う!
「とりゃあ!!」
ボシュウ…バキィン!!
「クソッ!!腕が焼き斬られた!!」
まずは腕を一つ封じた!後はもう一つの腕をやれば…!
「俺をなめるな!!」
「何っ!?」
コォォォ…
「鬼火ッ!!」
ボウッ!!!
「うわっ!」
そうだった…鬼は全般的に口から妖気を込めた炎を出せるんだった…
「(まだか…玲子!?)」
スゥー……
「そこだ。」
カシュッ。
やっと玲子が動いてくれた…これで一件落着かな。
「蝶月輪……」
スッ…
「月花閃。」
カチャン。
「ぐあ……あ…」
声にもならずに狂鬼は絶命した。流石は玲子の一撃必殺の居合い斬り…!
「ふぅ…お疲れ様、玲子ちゃん。」
玲子から美子の人格に戻った。この人格同士は一応お互いに知っているみたいだ。いつから知ってるからは分からないけど…
ー村ー
「悪い鬼は倒したよ。山兎。」
「お前ら本当にやったのか!?凄いな…誉めてつかわすぞ!」
「はは…ありがとう…」
相変わらず人を下に見る態度は変わってない…
「でも本当にありがとうなのじゃ。お前らには色々と世話になったな…」
「これでもう村に下りて来ることはないね?」
「うん!約束するぞ!」
山兎は山蛙を連れて元の山奥へと帰っていった。
「さぁ、依頼人に結果を報告しよう。」
ー翌日ー
「依頼は完了致しました。騒音の正体はやはり妖怪ではありましたが、無害な者であったため、山奥へと逃がしました。」
「ありがとうございます!何とお礼を言ったら良いか…」
「いえ、僕達は仕事をしたまでですよ。」
依頼人が去ろうとした間際、依頼人がこちらを振り向き、声をかけた。
「最後に質問良いですか…?」
「何でしょうか?」
「何であなた方達は妖怪退治屋を営んでいるのですか?妖怪に恨みでもあるんですか…?」
「僕達は妖怪を恨んでいませんよ。無害ならば手を差し伸べ、それが人々に危害を加えるならば人々を守るために刃を降り下ろすだけです。」
「なるほど…そういうことなんですね…」
そう、僕達は決して何でも妖怪を斬る訳じゃない。かつての両親も、きっとそうしていたから…
続く。
告予回次
「助けてください!村の女性が皆消えてしまったんです!」
「あなたは誰…?」
「そなたは美しい…」
「美子と玲子…妹を返せ!!」
次回「色男にご注意を」
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