第一部 終章

第一部 終章 ひなのの道具店


終章 ひなのの道具店



「本日開店です!」

 満面の笑みを浮かべて、わたしはそう宣言しました。

 一時は出店自体ができなくなりそうでしたし、事件の後はお店を出すのをやめようとすら思っているときもありました。

 でも、たくさんの人に励まされて、いろんな人に手伝ってもらって、わたしは今日、お店を開店させることができました。

 こんなに嬉しいことは、エリストーナに来てから初めてです。

 わたしを支えてくれた街の人たちはでも、開店の宣言の後もその場を動く様子がありません。

 お店の中に入っていくことも、買い物を再開する様子もなく、わたしに向けて何か含みを持った笑顔を見せているばかりです。

「後ろよ、ひなの」

 レレイナさんに言われて振り返りますが、そこにあるのは、出店が決まってからずっと見てきたお店があるだけです。

 ぼろぼろだった壁などはこのひと月で、倒壊した鐘楼の後処理などで忙しかったはずなのに、たくさんの人が来てあっという間に新品の家のようになっています。

 まだ入り口の扉が開いているだけで、窓も開けていないお店は、昨日最後の準備をしたときと変わらぬ姿を見せています。

「上だよ、ひな姉ちゃん!」

「上?」

 カツ君の声に少し視線を上げてみます。

「え?! あれ? ど、どうして……」

 並んで立っているレレイナさんとカツ君の顔を交互に見てしまいます。

 それから、どうやら事情を知っているらしい、他の人々のニヤケ顔も。

「この子の提案よ」

「昨日ひな姉ちゃんが帰った後、みんなで取り付けたんだ。つくるのにはオレも手伝ったんだぜっ」

 予想もしていなかった驚きに、わたしは胸の前で手をぎゅっと握りながら、もう一度お店を眺めます。

 扉や窓の上の部分、掲げられた看板を。

「ひなのの、道具店……」

 わたしは出店申請のとき、店名の欄に「レレイナの道具店」と書きました。

 それは未成年のわたしではお店を持つことができなくて、レレイナさんの持ち物を売るお店で、実際のお店を運営するのはわたしでも、レレイナさんのお店として出すからでした。

 でもいま、木彫りの見事な装飾がなされた看板には、「ひなのの道具店」と書かれていました。

「ここは貴女のお店よ」

 後ろから近づいてきて、優しくわたしの両肩に手を乗せたレレイナさんが、そう言ってくれます。

「わたしの、お店?」

「そうだよっ、ひな姉ちゃん!」

 即座に答えてくれたカツ君の声に、わたしはこれまでとは違う、何とも言えない嬉しさがこみ上げてくるのを感じていました。

「これから、よろしくお願いします!」

 大きな声で言って、わたしは深く深く頭を下げて、わたしのお店に向かって挨拶をしていました。


             「エリストーナ・フォークロア」 了

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エリストーナ・フォークロア 小峰史乃 @charamelshop

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