第29話 いつでも側にいて

 私はテーブルの向かい側へと移動し、渡さんの胸の中に飛び込んだ。

と、言っても私の方が大きいので、私が渡さんを抱き締めているみたいに見えるだろう。


私は渡さんを独占したいと思った。


なぜ私が無意識に「執事」なんて言ったのか、、、。

それは私が社長令嬢だからではない。


寂しい時、いつでも側にいてくれる存在が欲しかったからだ。


そう、私は甘えたかったのだ。


父親に甘えられなかった分まで、めいっぱい彼に甘えたかったのだ。


もう20歳の私を子供のように甘えさせてほしかったのだ。


それを自覚した今、改めて胸に押し寄せるものがあった。


私は遠慮せず泣いた。


渡さんは背中をポンポンしてくれた。


ずっとずっと願っていたのだ。


こうして優しく背中をポンポンしてくれる王子様が現れることを。


彼の体温は温かく、私は安心してうとうとすることができた。


身体中の力が抜けていく、、、。

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