第26話 抱き締めたい

 個室に入っても百合華ちゃんは険しい顔をしていた。


百合華ちゃんが口を開いた。


「渡さんだって、おかしいと思うでしょ!?

ママが亡くなって、まだ1年も経ってないのよ?それなのに、よりにもよって、あんな若い女と付き合ってるなんて!!」


僕は一瞬、『渡さん』と呼ばれたことに舞い上がりそうになったが堪えた。


僕は全く知らなかった。

百合華ちゃんの家庭の事情を。


彼女の母親が病気で亡くなっていたことも父親が全国的にも有名な高級ホテルグループの社長であることもだ。


百合華ちゃんは般若のような形相で話し続けている。


僕は、ただ相づちを打つことくらいしかできなかった。


僕にはわかっていた。

百合華ちゃんは寂しいのだ。

そして本当は、お父さんが大好きなのだ。


今の僕に出来ることはなんだろう。


僕は今すぐにでも、百合華ちゃんを抱き締めたかった。

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