第25話 遭遇

 『料亭 錦』は小路に入った、ひっそりとした場所にあった。

門から入り口へと石畳が敷いてある。


私は彼の後に続いて店内に入った。


「亀之蔵様、お待ちしておりました。

いつもありがとうございます。」


40代くらいの女将さんが出迎えてくれた。


その時、女将さんの後方から男性と女性が2人手を繋いでやって来るのがみえた。


私は思わず「は?」と声に出していた。

男性は私に気がつくと、目を見開いて驚愕している。


女将さんが私と男性の顔を交互に見て、控えめに尋ねた。


「お知り合いでしたか?」


しかし、沈黙。


そして、、、。


「何してるの?」

「何してるの?」


私と男性は、ほぼ同時に言った。


実はこの男性、私の実の父親だ。


父のとなりでベタベタしていた女性が急に改まって言った。


「百合華さんですよね。

私、お父様とお付き合いさせてもらってます笹川 真緒と申します。」


笹川 真緒はかなり若かった。

おそらく私とそんなに変わらない。


私の隣にいる彼も続いて挨拶する。


「百合華さんとお付き合いさせて頂いてます、亀之蔵 渡と申します。」


彼は深々と頭を下げた。



料亭玄関が気まずい空気に支配されていく。


女将さんだけが「おや、まあ。」と微笑んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る