第2話目標

母さんが血眼になりながら父さんを探している間に、ひたすら超能力の訓練を行う。

何故そこまでして超能力を極めるのか。

理由は簡単だ。俺にはそれしかないから。


特殊、と言う意味合いでは、チートに該当する能力ではあるが、正直強いかと言われれば返答に困る程度の力でしかない。

1度母さんの魔獣討伐を遠目から見たことがあるが、ドン引きしたね。

ヤムチャ視点と言うものを現実で見る事が出来るとは思わなんだ。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


3歳児の声から出るとは思えない呻き声を上げながら、目の前の40cm程度の石を持ち上げる。

頭が万力で締め付けられるような痛みに襲われながらも、全力で石に浮かべと強く念じる。


そして!遂に!浮いた!数cmぐらい。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


今のは痛みから来る呻き声ではない。絶望から来る呻き声である。


そう、俺が持つ超能力はこれ程までに弱いのだ。

これでも一応は成長してるんだよ?凄い微々たる速度で。

とは言え、侮ることなかれ。

塵も積もれば山となる、と言う諺があるように、ここで諦めたら弱いままで終わってしまう。

少なくとも、まだ成長しているのだから。まだ。


「つらたん……」


何故こんなにもつらい思いをしながら頑張らないといけないのか。

俺が石を持ち上げるのに苦労している一方で、隣の家に住む幼馴染は、俺が持ち上げた石を粉々にする芸当を見せてくれた。

それも息をするかのように一瞬で、だ。

3歳児にしながらデストロイヤーと呼べる戦闘力を持つ幼女。ドン引きしたね。

その時に幼女から言われた言葉がこれだ。


「アイク君は弱いから私が守ってあげるね」


「……うん」


幼女から守ってあげる宣言まで受けた俺のプライドはズタボロである。

さながら非力なヒロインの気持ちだ。

もうヒロイン枠でもいいかな?なんて考えが湧き出るぐらいには、この力の非力さに絶望している。


だが、先程も言った通り、諦めたらそこで全てが終わってしまう。

折角新しい命を授かり、オンリーワンの能力を手に入れたと言うのに諦める事が出来るだろうか?

否!断じて否である!

故に!俺はこの力の可能性を見るために、日々研鑽を積んでいる。


まぁ本音は最強になってハーレムウハウハしたいだけなんだけどさ。


「でもやっぱりつらたん……」


可笑しいな……俺が知るハーレム野郎共は大した努力もせずに最強になってる筈。

理想と現実は違うってハッキリ分かんだね。


そんな感じで頭痛と戦うこと数十分。


「あ!アイクくんだ!」


例のデストロイヤー幼女の登場である。


金色に輝く艶やかな長い髪。

長く綺麗に揃ったまつ毛。

小ぶりな鼻に……。

まあ纏めると将来めちゃ美人になるであろう俺の幼馴染だ。お・れ・の!幼馴染だ。

ぶっちゃけこれだけで勝ち組だよな。

変化球コースで幼馴染の寝取られパターンとかじゃなきゃ勝ち組だわこれ。

羨ましいかモブ共!?もはや俺の人生はこれだけで約束された勝利と言えよう。


「シェリーちゃんだ!」


3歳児特有の無邪気な笑顔を浮かべながら、よたよたとデストロイヤー幼女改めシェリーの元へと向かう。

人っちの裏庭に何勝手に入ってきてんだとか思うが、小さな村の関係なんてそんなもんである。


「アイクくん何してたの?」


「1人で遊んでたんだよ!」


少しは察しろよと思うが、相手は3歳児なのだ。寛大な心で接しなければ人間性を疑われてしまう。

俺は大人だからね!


「アイクくんは弱いんだから!1人でいたら危ないよ!」


「あん?」


無邪気な心は遠慮なく大人の心を抉ってくる。

無駄な動きのない見事な右ストレート。

まさに電光石火と呼べる攻撃は確実に俺の心を傷付けた。

即出会って相手を馬鹿にするような事言う?普通?子供だから普通なのかもしれないが……普通に傷付くからね?


「よ、弱くないもん!」


この3歳児風な喋り方もかなりキツいのに……何故俺の人生は無駄に辛いことが多いのか。

何故3歳児に馬鹿にされないといけないのか。

神様は俺の事が嫌いなのだろう。


「弱いよ!だってアイクくん魔法使えないじゃん!」


「それは……」


ちなみに俺に魔臓がない事は村の全員が知っている。

魔臓がない故の人生が如何なるものかを知っている大人達は、皆がアホみたいに優しい。

これで迫害とかされてたら暗黒面に堕ちるとか言うレベルじゃないが。


「魔法が使えなくても……大丈夫だもん」


3歳児幼女に簡単に言い負かされる精神年齢20歳の図である。

情けないとか言わない。


「お父さんが言ってたよ。アイクくんは魔法が使えないからシェリーが守ってあげなさいって!だから私がアイクくんを守ってあげるの!」


「……はい」


魔法が使えないの云々言われたら何にも言えねえや……。

まぁ一応は優しさからくる善意だからね?心に多少のダメージを負うのは仕方がない。


「だからアイクくんは私の近くに居ないと駄目だよ!」


この子将来旦那を束縛するタイプですわこれ。

まぁ……美少女に束縛されるのなら問題ないが。


「そうだ!見てアイクくん!新しい魔法覚えたんだよ!」


完全に己の世界に入っているシェリーは、俺の返事を待つことも無く、視界の先に広がる森林の方へ手を向けた。

そして風のようなものがシェリーの周りに集まってゆく。

緑色の何かがシェリーを囲い、それはやがて彼女の掌に収縮されてゆく。


螺〇丸かな?と言わずには言えない緑色の蠢く玉。

腹の底に響く重低音を響かせるそれは、1目見ただけで危険な物だと認識出来る。

瞳を爛々と輝かせながらヤバそうな魔法を使おうとしているシェリーの姿はとても幼女には見えなかった。

最近の幼女の戦闘力はこんなもんなんだろうか……なんてしょうもない事を考えながらも、シェリーを見守る。


「っうぅ……い、行くよ!」


そんなやばい物を生成しているシェリー本人も大分辛そうである。

額に汗を流しながらも、その掛け声と共に、緑色の玉が放たれた。


一瞬にしてシェリーの掌から玉は消え去り、次の瞬間には、凄まじい爆音と共に森の一部を吹き飛ばした。

1拍遅れてやってくる衝撃派。

3歳児の脚力では堪える事すら出来ない衝撃になす術もなく吹き飛ばされた。


「きゃあああああ!?」


「うおおおおおお!?」


いや、お前も吹き飛ぶんかい。

頭の片隅でそんな事を思いながら、ゴロゴロと芝生の上を転がる。

やがて勢いも収まり、俯せの状態で止まった。


この幼女……ナチュラルに殺しに来やがった。

そんなつもりがないのは分かっているが、そう思わずにはいられない痛みである。


「痛い……」


俺の台詞じゃボケェ。

横目にシェリーに傷がない事を確認しながら、俯せに倒れた体を起こす。

泥だらけになった衣服を見てゲンナリしつつも、シェリーが魔法を放った方に視線を向ける。


「oh……」


文字通り、森林の一部が吹き飛んでいた。

幹の一部を削ったとかではない。

まるでそこにミサイルでも落ちたのではないかと思わせる惨状が広がっていた。

こりゃデストロイヤーですわ。

シェリー改めて、デストロイヤー幼女は、そんな悲惨な惨状を視界に収め……満面の笑みを浮かべた。


「すごいでしょ!これならアイクくんを守れるよ!」


殺されかけたんですが……なんて事は口にしてはいけない。

そして俺は初めてこのデストロイヤー幼女に恐怖心を覚えた。

あ、この子サイコパスかも的な。

サイコパスとサイコキネシス。字面は似てるが、サイコパスの方が圧倒的にやばい。

寧ろ後者のサイコキネシスは石しか持ち上げられないのだから可愛いものだ。


あれ?これシェリーが主人公なんじゃね?思わずそう感じずにはいられない。

超能力の弱さも含め、シェリーとの関係性が決定づけられた瞬間だった。


「ダメだこりゃ」


精神年齢20歳、体は3歳児。早くも敗北の味を知り、改めて志を持つ。

何か、確信があったのだ。この先もシェリーとは長い付き合いになると言う。

だからこそ、俺は強くならないといけない。

シェリーに殺されない為にも。


ハーレム?最強?


馬鹿野郎。まずは自分の命を守る手段を手に入れることが最優先なんだよ!


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