第2話 百目鬼(どどめき)
将門はかなり魔物に近い存在だったんだが、それ以外にも俺は本物の鬼や魔物を何度も退治したことがある。
たとえば
俺は将門討伐の武功で
さらに東京の多摩とか、神奈川の川崎や横浜も含む、広大な地域を治めたんだから、なかなか大したものだろう?
ところで平安時代というのは、
当然、俺が赴任した当時の下野・武蔵なんかも、鬼や魔物がウヨウヨ居てさ、民衆に悪さするもんだからみんな困ってた。
しかしこのころの俺は将門討伐だけじゃなく、後に語ることになるであろう三上山の
ようするに、当代随一の妖魔退治のエキスパートだったんだ。
その俺が赴任したことで、ここいらの鬼やら妖怪やら死霊やらも恐れをなしてね、ほとんどが退治するまでもなくどっかに消え去っちまった。おかげで領民の暮らしは安泰になり、ずいぶんと感謝されたもんだ。
なもんで、俺も城を構えてわりとのんびりと過ごしていた・・もちろん
ある日のことだ。俺は仕事の余暇で趣味の
俺は弓矢の名手として有名なんだが、この日も弓矢を持って出かけた。
ひとしきり
「すみません藤太様、最近このあたりに恐ろしい
俺は今で言う県民の皆様に親しまれる良い知事さんだったからさ、わりとみんな親しく『藤太』の名で呼んでくれてたんだ。
「お爺さん、そういうことなら明日とは言いません。今行って退治しましょう」って、即答してやった。
そのくらい俺は県民サービスは素早くきっちりとやる、立派な知事さんだったんだぜ。
今どきの知事さん連中も、少しは俺を見習うといいぞ。
話を聞くとどうやら百目鬼は、そこから北西に位置する
それで早速行ってみたんだな。
当時のそのあたりは、死んだ馬を捨てる場所で、馬の腐った死体がごろごろ転がっている臭くて気味の悪いところだった。
そんなところで俺は夜になるまで待ったさ。
県民の皆様へのサービスってのはそのくらい大変なものなんだよ。
当時は街灯なんかなかったから、月明りしかない。
俺は夜目が効いたもんだからいいが、それでもしんどい仕事だったぜ。
とにかくその時間になってようやく馬の死骸にしゃがみこんで、もそもそやってる奴を見つけたんだ。
黒い大きな影みたいなのが、馬の死骸をむしゃむしゃ食っていやがった。
そこで、とりあえず矢を射てやったんだな。
ところが矢は奴の身体に通らず跳ね返りやがった。
俺の弓は並の奴なら5人がかりでも引けない強弓だぜ、かなり驚いたよ。
月明りに照らされて立ち上がった奴の姿を見たときは、さすがの俺も身震いしたね。
いや、怖かったわけじゃない。
すごく気味が悪かったんだ。ゴキブリに遭遇したときみたいなもんだよ。
なにしろ黒い体は全身が剣みたいな毛で覆われている。
そうだな、ヤマアラシとかを想像してくれ。それも身長3mほどで立ち上がる奴だ。
しかもその体中の毛の間には、無数の光る目があって、それらが一斉にこちらをギロリと睨んでるんだ。
鳥肌が立つくらい気味の悪い奴だった。
あんまり気味が悪いものだから、今度は奴の目の一つめがけて矢を放ったんだ。
やはり目は弱いみたいで、これは見事に刺さった。
百目鬼はギャーと悲鳴を上げやがったね。
しかしこの調子で目をひとつづつ潰していってたんじゃ、何日かかるか知れやしない。
臭いし気味悪いしであまり近づきたくなかったんだが、俺は腰に差していた魔物を断ち斬ることができる霊剣・
百目鬼は長い腕を振り回して応戦してきやがった。
奴の毛はなにしろ一本一本が剣みたいなものだったからね、かなり骨が折れる仕事だったな。
普通に斬りかかったんじゃ、刃が通らないんだ。
そこで俺は、趣味の
つまり毛並みの逆方向から斬ってみたんだ。
これがビンゴで、百目鬼の肉を斬る手応えがあった。
しかし斬ったと思った瞬間、左腕に熱湯を浴びたような痛みを感じたんだ。
百目鬼の血しぶきを腕に浴びたんだが、奴の血は強酸性なのか浴びた部分に
もっと大量に浴びてたら、さすがの俺も命が危なかったかもね。
このとき腕に負った火傷の
この一撃で百目鬼は地面に倒れ伏した。
即死だったね。
なにしろ俺は日本一の怪力の持ち主で、刀は霊剣・蜈蚣切丸だ。
どんな鬼でも妖怪でも死霊でも、一撃必殺できるんだ。
ただ百目鬼ってやつは死んでからも始末が悪い。
死骸はすごい高熱と悪臭のガスを放って、目は痛くなるしで近づくこともできない。
しかたないので、その夜はもうそのまま放置して城に帰ったんだ。
翌日、家来を連れて百目鬼の死骸を回収しようと行ったんだけど、地面には奴の体の焦げた跡が残っていただけだった。
燃え尽きたのかもしれないね。
まあ、それで百目鬼退治も大変な評判になって
このように俺はちょっと偉くなったからって、知事室の椅子にふんぞり返ってる知事さんじゃなく、まさに身を粉にして、汗を流して県民の皆様のために働いていたということを知っておいてもらいたいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます