蜈蚣切(むかできり) 史上最強の武将にして最強の妖魔ハンターである俺が語るぜ!
冨井春義
第1話 まずは俺の自己紹介だ
お前ら、よく集まってくれたな。まずは自己紹介しよう。
俺の名は
簡単なプロフィールをいうなら、お前らのいう平安時代の中期の武将だな。
今、こうやってお前らに話が出来るのはお前らが好きな転生とやらじゃない。
どちらかというと憑依に近いかな。
とにかく、この冨井なんとかいう奴に言霊を与えてだな、お前らに語り掛けているんだ。
俺の没年は不詳ということになっているが、まあだいたい60歳近くで死んだので、本来ならもっと威厳のある語り口調なんだが、こういうフランクな語り口になっているのは憑依した冨井のアレンジだと思ってくれ。
まあ、俺もこのほうが気楽に喋れるし、この調子でやろうと思う。
俺には
俺自身もこの名乗りは気にいってるんだ。
おれん
藤原氏といえば摂政関白という権力の中枢を独占していて、まあ権力争いも盛んな家柄だ。
でもおれん
つまり本流の藤原氏を
権力争いに加われるほどの家じゃないんだ。
そういえばお前ら、
日本で一番多い姓、それが佐藤だよ。
これを読んでいるお前らの中にも佐藤って苗字の奴居るだろ?
覚えておけよ、俺はお前らの祖とされている人物なんだ。
今日ただいまから、全国の佐藤は俺を祖として
まあ、そんなわけで俺は本名よりも、
藤原ん
俺は
それで田原の藤太、転じて
そして俺こそは史上最強の武将にして、史上最強の妖魔ハンターだ。
何?そんな名前、聞いたことが無いだと?
それは非常に腹の立つことなんだが、けっしてお前らのせいじゃない。
今どきの伝奇小説家や歴史小説家や漫画家の不勉強のせいだ。
俺はそれを改めるために、今こうしてお前らに語りかけているんだ。
そしたらなんだっけ、
あれは
よくそれで都の吉凶がどうの言えたもんだが、そんなのがなんか超人ヒーローみたいな扱いでさ、あきれ果てたぜ。
アルコール依存症の鬼の親玉に毒酒飲ませて、動けなくなったところで首を
あいつは俺のずっと後輩なんだけど、どれだけしょぼいヒーローなんだよな。
荒俣宏とかいう小説家の書いた「帝都物語」ってのを読んだ。あれは確かに面白かったよ。
なんといっても懐かしいあの
加藤とかいいう陰陽師の
それにお前らのいう明治時代の陰陽師やら学者やらが、必死になって対抗しようとするんだな。
明治、大正、昭和から未来にまでまたがる大長編小説よ。
わくわくしながら読み進んだんだ。
なにしろ、あの将門が蘇るんだぜ。
当然、最後に奴に立ち向かうのは他ならぬ、この俺に違いないと思うだろ?
10巻もある小説を読破したんだが、なんだよあれ?
俺のことが一行も出てこないじゃないか!ひょっとしたら1行くらい出たのかもしれないが、俺には見当たらなかったぜ。
え、何?
ああ、そうか。お前らは俺のことを知らないんだったな。
よーく覚えておけよ。
将門の首を
俺は別に将門と仲が悪かったわけじゃない。
俺ん
だからあいつが朝廷に反旗を
でもね、最後にあいつに会いにいったとき、これはもうダメだと思ったね。
もうこいつはかばえねえと。
あいつはかなり魔界の者に近い存在になっていた。
ほとんど不死身だったし、常人ではない強大な霊力を持っていたよ。
しかし「
力と人物のバランスが最悪だったんだ。
それで仕方なくあいつを討ち取ったんだよ。
朝敵だったあいつの首は、さらし首になったんだが奴は不死身なもんでさ、首だけになっても死なないんだ。
「俺の胴体はどこにやった!すぐにここに持って来いよ!おい
あいつはまさに
それでいろんな坊主やら
そんなとき藤六左近とかいう歌人が奴の首の前でさ、
「将門は こめかみよりぞ斬られける 俵藤太がはかりごとにて」って歌を詠んだんだ。
これはこめかみ(米)と俺の名乗りの俵(たわら)に引っかけた、今でいうところのダジャレなんだ。
実にくだらないダジャレなんだけど、
これを聞いて大爆笑しちゃったんだな。
その瞬間あいつは霊力を失って朽ち果てたんだ。
まあ、ざっと語るとそんないきさつなんだけど、なんで
頼光だの安倍晴明だのなんざ、俺からすると物の数に入らない程度の小物なのに、スーパーヒーロー扱いだし。
せめてこれを読んだお前らくらいは、俺の名を覚えておくがいい。もう一度言うぞ。
俺は
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