弐-11





ㅤ遠い昔、まだとても幼かった頃。

ㅤ園児たちの輪に馴染めず、一人でいた自分に声をかけてきた物好きな子がいた。

ㅤ綺麗な栗色の髪を揺らして、大きな瞳をこちらに向け、手を差し伸べて、その子は言った。


いっしょにあそぼ?


ㅤ当時は激しい人見知りのせいでまともに人と話せず、友達ができるせっかくのチャンスだった。

しかし恥ずかしかったらしい自分はその誘いをガン無視し、あろうことかその子を睨んでしまった。

ㅤ目つきの鋭さも手伝って、当然その子は肩を揺らして怯え、それから二度と近づいては来なかった。

ㅤそれからまた、一人になった。

ㅤそして二カ月ほど経ったころ。その子が男子たちにいじめられているのを見かけた。

ㅤ髪結いのゴムだろうか。かわいらしい飾りと色をしたそれを男子たちにとられ、不自然に片方の髪だけをくくっている状態のその子は返してとせがんだ。だが男子たちは自分で取り返してみろと聞かない。

ㅤよほどのお気に入りの髪ゴムだったのか、ついにその子は泣き出してしまった。理由は知らないが、そのとき先生たちは一人も近くにいなくて、怖かったのか、その子を助けようと言う子もいなかった。

ㅤそのときの自分が何を考えていたのかは覚えていない。しかし、自分はその男子に近づいて、その無防備な頭に一発入れ、届かないように上へ持ち上げていたその子の髪結いのゴムを後ろから取りあげた。

ㅤ不意打ちを食らった男子は怒り、なにか声を上げながら睨んできた。

ㅤそれを無視し、髪ゴムを泣いているその子に差し出してやる。恥ずかしいからそっぽを向いて。

それに気づいたその子がおそるおそる髪ゴムを手に取り、涙を流した顔のまま笑ったそのときの顔は、今でもはっきりと覚えている。


ありがとう!ㅤるいくん!


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