壱-7





 辺りは暗闇に包まれていた。目をあけているのか閉じているのかわからないような真っ暗な空間。そのなかに、瓏衣は立っていた。


 振り返れば、扉らしきものが半端に、少しだけ開いていて、自然と足はそこへ向かう。ドアノブはなぜか瓏衣の頭上に位置していた。それを疑問に思うこともなくつま先立ちになりながら握り、さらに開く。


 その向こうには誰かが立っていたが、顔はハッキリと見えない。そしてその後ろの窓からは満月が見えている。それは大きく、そして血を被ったような赤い赤い満月だった。


 その赤い月明かりが部屋の壁を真っ赤に染めあげ、その顔のわからない誰かの足元にあるなにかの形と影をぼんやりと浮かび上がらせる。少し大きな、まるで人が倒れているようなそれが二つ。


 その誰かは瓏衣に気がつき歩み寄ってきた。瓏衣は恐怖もなにも抱かず、そこに立ったままでいる。誰かはすぐ目の前で立ち止まり、跪くと、右手をゆっくりと瓏衣の頭へ乗せた。


 その手が優しく頭を撫でる。瓏衣はその誰かの顔を見ようとしたがそこで意識が途切れ、顔を見ることはかなわなかった。

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