第21話 魔銃と温泉

 魔銃と呼ばれる武器がある。魔法を弾に込めて撃ち出す銃で、近年になって開発された。


 口で魔法を唱えるより早く魔法が唱えられ、威力もある。だが、常に暴発の危険性があった。


 チャンスは、魔銃技師であるエレーナの元で、魔銃に込める弾の開発に協力していた。


 エレーナは白い肌に金色の髪を持つ女性で、身長は百五十㎝。体重は四十㎏しかなく、小柄である。髪は肩まで伸びた髪を二つに分けて後ろで結んでいた。


 格好は魔銃技師らしく、クリーム色のシャツにズボンを穿き、エプロンをしている。手には黒い火避けの魔法が掛かった手袋をしていた。


 全長十五㎝、装弾数二発の魔拳銃をエレーナが手にする。エレーナが真剣な顔で十m離れた直径二十㎝の紙の的を狙った。


 ぱんの音と共に、小さな火の玉が飛んで行き的を燃やす。

 エレーナは魔銃をじっと見て口にする。

「やっぱり違う。ミラクルさんが込めた魔法は精度や安定性がぐんと優れている」


「それは、わいは炎の魔精霊やからね。炎の扱いに長けておる。でも、それ以外は人間と変わらんで。あと、ミラクルさんやなくて、チャンスでええよ」


 エレーナが真面目な顔のまま尋ねる。

「ねえ、チャンスさん。魔小銃って、知っていますか?」


「直径十六㎜、長さ百㎝くらいの、構えて撃つ魔銃やろう。エレーナさんが今そこで使っている魔拳銃と違って、もっと大きくて、もっと強力な魔法が撃てる魔銃や」


 エレーナが思案する顔をして一人で論じる。

「そうなんです。魔拳銃では、どう頑張っても火弾クラスの魔法が精々。もっと大きくて爆発する火球のような魔法は危なくて込められない。でも、戦闘を考慮すると火球クラスの魔法は欲しい」


「そうやけど、魔銃って、威力が上がるに比例して、暴発率が上がると聞いたで。火球が暴発したらパーティが一気にピンチになるやろう」


「チャンスさんの指摘する通りです。だから、魔銃は危険すぎて普及しない。でも、安定性の問題さえクリアーできれば、冒険者の戦術を変える武器になる」


「あまり、強すぎる武器も考えものやと思うけどなあ。それに、わいは別にして、魔精霊や魔神は人間に協力的やないから、良い弾の量産は難しいと思うよ」


「そうなんですよね。弾が全て輸入品になると、どうしても、弾を独占している勢力に頭が上がらなくなる。そういう事態は、避けたいですよね」

(何か話が噛み合ってない気がするけど、しゃあないわ)


 チャンスは、その日の報酬を受け取ると、幸運の尻尾亭に帰った。

《幸運の尻尾亭》で安い赤ワインを飲んでいると、ゼルダがやってくる。

「どう? エレーナの依頼は、上手く行った?」


「依頼自体は簡単やった。だが、エレーナはんが抱えている問題は、簡単には解決できそうにない」

「魔銃は新しい技術だから色々と問題があるのね」


「それに、個人的な意見やけど、魔銃の開発は好きになれん。人間は過ぎたる武器を持つべきではないわ」


「そうはいっても、武器の開発は続くわ。魔銃がすたれるか流行はやるかは、まだわからないけどね」


 数日後、えらく機嫌の良いヘンドリックを幸運の尻尾亭で見た。

「おや? ヘンドリックはん、ご機嫌やな。何か、ええことでも、あった?」

「チャンス、来たぜ、俺の時代が。火山の奥で火龍石が発見された」


「火龍石か。希少鉱石やな。でもユガーラの街の北にある火山にはないって聞いたで」


「それが、出るようになったんだよ。おかげで、がっぽりと儲かった。護衛を付けても、ありあまるほどだ」

「そうか、それはラッキーやったな」


「ああ、これで、メリンダの店にしばらく入り浸れる」

 火山に火龍石が産出するようになった。最初はあまり注目するニュースではなかった。


 だが、すぐに状況が一変した。冒険者ギルドの依頼掲示板に、火龍石を求める依頼票が多くなった。


(何でや? 火龍石は、そんなに使い道のある石やない。供給が増えれば、値段が下がる。それなのに、火龍石の値段が徐々に上がっておる)


 依頼票を見れば、エレーナが出した依頼もあった。

(ちょっと気になるのう。聞いてみるか)


 昼過ぎにエレーナの家を訪ねる。エレーナは愛想よく会ってくれた。

 エレーナの家のリビングで話を聞く。エレーナの家には隣接する工房があるので、リビングは綺麗に片付いていた。


 エレーナはお茶と黒糖饅頭を出してくれた。

「魔銃の開発はどうや、エレーナはん? また、わいの力が要らんか」


 エレーナが微笑んで訊く。

「何? チャンスさんは営業に来たの?」

「そういうわけやないで。ほら、巷で火龍石ブームが来てるやろう。エレーナはんも依頼票を出しているようやし、何かあったんかな、思ってな」


 エレーナが目を輝かして語る。

「魔銃に革命が起きます。今、魔銃業界では、ある論文が話題になっています」

「何や? 凄いことが起きとるんか? して、その中身は」


「炎系の魔法だけですが、火龍石を弾に詰める対応で暴発確率をぐんと減らせるんです」


(なるほどのう。それで、値上がりか。どの魔銃技師も、論文を確かめるために火龍石を欲しとるわけか)


「魔銃の欠点を補えるわけやな。上手く行けば魔銃の利点だけを生かせるのう」

 エレーナは意気揚々と語る。

「魔銃使いも、今よりぐんと増えるでしょう」


(弾に詰めるのなら、消耗品やな。需要が伸びれば、価格も上がる。値上がりを見越して買い占めが起きているんやな)


「もし、チャンスさんが協力してくるのなら、研究は、より進みます。火龍石と魔精霊の力を借りれば、暴発確率は限りなく零になります。銃の状態が良ければ、ですが」


「これは、来るかもしれんな、魔銃革命。でも、問題はないんか?」

「あるとすれば、火龍石が掘れる場所が火山の奥であり、危険なモンスターの住処といったところでしょうか。なので、冒険者の実力がないと、せっかくの火龍石も掘れません」


「物が火龍石やからね、浅い場所にはないからそれだけが問題か」

 エレーナに礼を言って、冒険者ギルドに行く。


 セビジが暇な時に話し掛ける。

「ちょっと、教えて。火山からの冒険者の生還率って、悪くなっている?」


 セビジの表情はかんばしくなかった。

「残念だけど、悪くなっているわ。実力がないパーティも、お金欲しさに、無理に火龍石を狙いに行っているのが原因ね」


「てことは、怪我人も続出しておるの?」

「そうよ。おかげで温泉街は繁盛しているようだけど。ほら、ユガーラの温泉は火傷やけどによく効くっていうでしょう」


「へー、そうなんや。ここの温泉は、火傷によく効くのか」

 次の日、ユガーラの温泉の中でも特に火傷に効くと評判の湯治場を訪ねる。


 湯治場は、冒険者で混雑していた。

(本当や。湯治客に冒険者が多いなあ)

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