月 第十二話

 閃光。

 プラズマ発光体が現れた。

 サンは蔓を鞭のように撓らせて打った。

 既の所でプラズマ発光体に逃げられる。

 怯まずサンは打った。

 するりとプラズマ発光体は斜め上空に逃げた。

 サンは大きく蔓を撓らせた後、手を翻しては蔓を上下左右に波打たせ、プラズマ発光体を手玉に取る。

 俊敏に逃げ続けるプラズマ発光体だが、つとサンが蔓の動きを弱めると、プラズマ発光体も動きを弱めた。

 「変態します」

 ナオキの声が聞こえてきた時には、既に蔓先のトゲがプラズマ発光体に命中していた。

 サンがプラズマ発光体を手玉に取っていたのは、サンの陽動作戦だったのだ。動きを弱めたプラズマ発光体を見逃さず、素早く手を翻して打ったのだ。

 閃光。

 青鬼が現れた。

 だが、ぼやけたバイテク立体ホログラムの青鬼だった。まるで空気分子に弄ばれるかのように青鬼の像は揺れている。

 「ゲノムの巣窟に投与が奏功して、速やかにバイテク分子が効いています」

 ナオキの声が嬉しそうだった。サンも嬉しくなる。

 閃光。

 プラズマ発光体が現れた。

 「バイテク誘導物質を投与して下さい」

 ナオキの張り上げる言葉が終わる頃には、サンは左上腕に巻き付けている蔓を解き終え、蔓を鞭のように撓らせて打っていた。弱ってきているのか、いとも簡単に、蔓先のトゲはプラズマ発光体に命中した。

 「バイテク分子と同様に、ゲノムの巣窟への投与で、バイテク誘導物質も速やかに行き渡ります」

 ナオキの予言通り、プラズマ発光体の青色の輝きに斑が生じ始めた。閃光するがその輝きは鈍い。

 「バイテク破壊酵素が作動を始めました」

 ナオキの声は肩の荷が下りたといった感じだった。

 宙に浮かぶプラズマ発光体は、抵抗するかのように閃光するが、閃光する度に輝きは益々鈍くなっていた。

 「順調に行っています」

 ナオキの声に振り返ったサンは歩み寄った。覆っている強化膜を刀で斬る。

 胡坐をかいているナオキがサンを見上げ、ぎこちなく微笑んだ。

 「その尻尾は便利ですね」

 ナオキが再びぎこちなく微笑んだ。

 「はい」

 サンはナオキの微笑みが嬉しくて、再生している尻尾を勢いよく左右に振って見せた。

 尻尾を見ていたナオキの目が、すっとプラズマ発光体に向いた。

 「まさか……」

 気付いたサンが急いで振り返った。

 プラズマ発光体は依然、宙に浮かび閃光を続けていた。だが、その輝きは以前とは違っていた。徐々に明るさを増しているのだ。

 ナオキは携帯バイテクコンピュータから伸びる八インチの葉状画面を見つめた。

 「危惧していたことが起こりました。シミュレーションが不可能だったバイテクジャンピング遺伝子が動いています」

 落胆するナオキの声に、サンは振り向いた。

 「バイテクジャンピング遺伝子は、全てのバイテク破壊酵素を置き換えて無効化しました」

 無念そうにナオキはサンを見上げ、震える声で言った。

 「それだけでなく、バイテクジャンピング遺伝子は、抑制された遺伝子発現を解除し、破壊された遺伝子も修復しています。それに……」

 ナオキは葉状画面に目を落とした。

 「ゲノムが増えています。それもとてつもない数……」

 愕然としたサンは、頭脳が混乱した。これから何が起こるのだろうかと、胸騒ぎを覚えた時、ナオキが絶叫した。

 「変態します!」

 閃光。

 ソニックブーム!

 周りが青色の光に染まったと同時に、強烈な衝撃波が起った。

 サン達がいる枝部分に位置する空間は、枝ごと吹き飛んだ。

 吹き飛ばされたサンだが、アポロバイテクドーム内の月の地面に身を翻して着地した。

 閃光。

 破片や塵が舞う中、ぼやけたバイテク立体ホログラムが、四肢を突っ立てていた。耳と尻尾が確認できる。

 「ミアキス」

 サンは呟いた。ミアキスの遺伝子になるバイテクジャンピング遺伝子を思い出したからだ。

 閃光。

 ソニックブーム!

 一瞬にして、ぼやけたバイテク立体ホログラムが弾け、青色の光が散り散りになった。

 閃光。

 青色に輝く無数の小さなプラズマ発光体が現れた。

 閃光。

 無数の青色の蝶が現れた。

 「蝶に変態した」

 仰ぎ見るサンは呆然と呟いた。

 上空で青色の蝶がふわふわと舞っている。それらの蝶は、離れたりくっついたりしているが、群れを作っている。

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