夏のワカレメ2

「やっぱり、そう上手くはいかんな。」


ひと仕切り、市立図書館内を探し回った勇人は、ロビーにある休憩用のベンチに腰を下ろしぼやいていた。


ここの市立図書館は、新築されたばかりでもあり、1階2階共になかなかの大きさで見て廻るのも一苦労。

そんな中、他校の小学生は、いるには居たが、そう都合よく見つかる事は無かった。


「どうスッかなぁ。

もう諦めて帰るか?

だいたい、ココだけが子供が大勢、集まる場所って訳じゃねえしなぁ。

イヤ、それじゃアインと一緒だ。

せめてプールで、ひと仕切り探してから帰るかなぁ。

水着のお姉ちゃんのおっぱいも見れるし。」


既に当初の崇高な目的も、卑猥で色欲な目的に徐々にすり替わりつつあった。

こういう所は、まるっきり変わっていない。

男の本能ゆえだろうか?

だが、心が萎えかかっているそんな勇人に、話しかけて来る人物がいた。


「あっ!?やっぱりそうだった!!

勇人君じゃない。

こんな所で一人で何してるの?」


明るく軽やかで人に元気を分けるような声の主…。


「しまぽんっ!?」


しまぽんだ。

そしてしまぽんの背中からひょっこりともう一人、土那高マキが顔を出して挨拶してきた。


「あの…。矢城君のお兄さん…。ども~。」


「マキちゃんまでっ!?

イヤ、普通に図書館に来ただけだが…。

そっちこそどうしたんだよ?」


マキが勇人の質問に、ゆっくりとだが自発的に答える。

勇人達が土那高マキと出会って、1年以上経つ。

マキにとっては勇人達の存在は、当たり前の存在になってはいたが。

やはり男の子と話すのは恥ずかしいのか、少しばかりどもり気味であった。


「じ、実は今日…。

ここの図書館で、イベントがあるんで…。ひ、一人で来るのも怖かったから…。」


「私に付き添いで一緒に付いて来てって、頼まれたってわけ。」


マキとしまぽんの説明を聞いた勇人だったが、一つ分からない事があった。


「へ~~イベント…。

そのイベントって、なんのイベントなんだ?

コンサートじゃねえよな。

図書館なんだし。」


「あっ!

い、イベントって言うのはですね…。」


マキがゴソゴソと、自らのカバンの中をまさぐり、一枚のチラシを取り出して、勇人の目の前に差し出してきた。

焦点を当てながら、勇人はそれをゆっくり読む。


「…?…えっと…。

夏休みだよ全員集合…。

小さなお子さまも安心なのか…?

ぱろメイン同人イベント…。

………………。

同人誌即売会!?

えっ?今日、月曜だよな…。

あっ!祝日振替か…。

って、そんなのドコでやってんのっ!?」


「こ、声が大きいですよっ!!。矢城君のお兄さんっ!!」


珍しくマキが勇人をいさめる。


「こ、この図書館には、ちょっとした大きめの会議場もあるんです…。

一般に貸し出しもされてて…。

そ、そこでやるみたいなんです。」


「へ~。

この図書館ってそんな事もやれるのか…。」


マキに言われて、じっくり図書館内を見回してみると…。

それらしいイベントに参加するのであろう服装の、メガネ率のやたらと高い男の集団が見受けられた。

男ばかりでなくキャイのキャイのと、ハシャぐ女性の集団も見受けられる。

それにしても、最近は女性の参加率が、男の参加率より高くなってきた。

フと勇人がある事に気づく。


「山田はやっぱり居ないんだな。

まあ、同人イベントに参加するようなガラじゃねえだろうけど…。」


「華ちゃんは塾に行ってるんだ。

で、私もちょっと不安だったから、もう一人こういうイベントが好きそうな子を呼んだんだけど…。

まだ…。」


しまぽんがそう勇人に説明しかけてると…。


夢だけど~♪夢じゃ無かった~♪夢だけど~♪

ピッ!!


「はいは~い。今?

図書館のロビーに居るよ。

イヤ、北門の方から入るんじゃなくてさ。南門の方の正面玄関の…。」


しまぽんのケータイの着信音である。

しまぽんがケータイの持ち主と、居場所のやりとりをしていると…。

ケータイを片手に持った一人の女の子が、小走りに走り寄って来る。

勇人がその子を見た瞬間。


『あっ!?見つかったよ…。』


強烈な違和感と確信と共に、あっさりと簡単に見つかり達成感も何も無い。

なんともやるかた無い複雑な思いが、心の中を走るのだった。

その子は、おとなしめな雰囲気の、和という言葉が似合う。

セミロングの髪に、薄手のロングスカートの可愛い女の子だった。

小走りに寄って来て、勇人達の前まで来ると、しまぽんが紹介しだした。


「この子は峠坂 京(トウゲサカ キョウ)ちゃん、私の保育園の頃からの友達なんだ。

今は秋桜小に通ってるの。」


しまぽんのその紹介を聞くと、キョウはペコリと頭を丁寧に下げ、優しい物腰で挨拶してきた。


「どうもはじめまして…。

峠坂 京(キョウ)と言います。

まさか、男の子も一緒に来るなんて、少し驚きました。

私もイベントは始めてなので、よろしくお願いしますね。」


「「「…………………。」」」


キョウがそう誤解していると、しまぽんとマキが勇人を見る。

何とも言えない微妙な空気になる。

しまぽんが勇人にそっと耳打ちしてきた。


「どうするの?私達と一緒に来る?

入場料にちょっとお金かかるけど…。」


「まあ、どんなモンか興味もあるし。

迷惑にならないなら、行かせてもらうよ。」


「うん、分かった。」


しまぽんは快く頷くと二人を紹介しだした。


「キョウちゃん。

こっちはマキちゃん。この前メールで言ってたオタなお友達ね。」


マキはそう紹介されると、恥ずかしながら挨拶しだした。


「は、はじめまして、今日(きょう)はよ、よろしく…。

あっ!?。こ、このきょうは日にちの方で…。

よ、呼び捨てにした訳では…。」


「大丈夫ですよ。慣れてますから。」


顔を赤らめ手をバタバタと横に振って否定するマキを、キョウはそう言ってニコリと微笑んで答えた。

心にゆとりがあるのだろう。

それを見て次に、しまぽんは勇人を紹介しだした。


「で、こっちは急きょ参加する事になった。

勇人君。

メールで前に話してたあのパンツマン勇人君…。」


「あ~!あなたがアノっ……。

お噂はかねがね伺ってます。

一度会ってみたいと思ってました。」


そう言いながら勇人の顔をしげしげ見た後、丁寧に頭を下げてきた。


「ぱ、パンツマン…?

そのしまぽんから聞いた噂は気になるけど…。

とりあえず、まあよろしく。」


勇人はそう言うと、試しに握手を求めて手を差し出してみた。


「はい、よろしくお願いしますね。」


何の躊躇も恥じる事もなく、あっさりその手を握り返して握手してくる。

どうやら悪い印象はもたれて無いようだ。

普通に良い子だ。


「じ、じゃあ早速行きましょう…。

パンフレットが入場券になってますから…。

皆さんの分のパンフレットを買ってきますっ!!」


マキが妙にやる気を出して、会場があってるだろう方へと駆けて行く。


「ま、マキちゃんが行動派になってる…。」


「オタクってそんなもんなんだよ…。」


妙に納得いく答えをしまぽんから言われ、思わず頷く勇人。

珍しい光景を見るような目で、勇人達もマキを見失わないよう着いて行くのだった。


「スゴいな…。こりゃあ…。」


勇人は思わず圧倒されてしまった。

その会場の中は熱気で溢れていた。

妙に暑い。

エアコンは付いてはいるが、もはや扇風機の弱風並みの威力と効果しかなしえていない。

小規模イベント故に仕方ないのだろうが…。

スペースに対して人が多すぎるのだ。


熱気以外にも、独特なアロマの香りもする。

夏の体臭や汗クサさを和らげる為だろうか…?。

悪くは無いが良くも無い。


雰囲気としては、文系の学園祭のノリに近いが…。

やはり独特なやる気と雰囲気で満ちている。


マキは水を得た魚のように、売り子の元を次々にハシゴして、彼女にとってお宝にあたるであろう、一冊千円位する薄い同人誌を、何冊もゲットしていく。


しまぽんはじっくりと吟味して、500円位のコピー本でガマンしているようだ。

子供にとって同人誌はやはり高い。

マキの買い方が、子供にしては強気過ぎるのだ。

本当に始めてなのだろうか?


そんな中、件のキョウはと言うと…。

アニメのオリジナルグッズや、着物の端切れを使った手作り和柄のアクセサリーを物色しているようだ。

キョウは和柄のシュシュを手にとると、感触やゴムの強さを確かめている。


勇人は、会場の暑さと雰囲気に圧倒され、疲れたので壁際のパイプイスで休む事にした。


『スッゴいなこりゃあ。

体力の減り方が半端ねぇぞ。

だが、当初の目的は達成出来たんだ。

後はどうやって彼女と友達になるかなぁ…?

しまぽんに住所を聞くのも変だしなぁ。

しまぽんと同じ保育園で、秋桜小なら。

大方の家の場所は予想つくけど…。

さて、どうしたもんか。」


勇人がそう悩んでいると…。


「はあ~。あつかね~。

シャレにならんばい…。」


『えっ!?こ、この声は…。まさか…?』


この場にやたらとなじんだアノ親父さんも、やたらデカいカメラをいつものごとくぶら下げて台車を引っ張りながらやって来た。


「いやあ~出遅れてしもうた~。

失敗したば~い…。

やっぱりあん仕事ば断るべきやったね~。

夏風邪ばひいてプールに行けん言うて…。」


何だかハタから聞いてたら、薄ら寒い事を言う、常識から斜めにはずれた人間が居るなと認識し…。

勇人がその方向に、見つからないようおそるおそる顔を向けると…。


「あっ!?やしろ君じゃなかね~!!

久しぶりった~い。」


『っ!?ヤッベっ!!見つかった~…。』


やはりマキの父親だった。


「おじさんっ!!

ココで名前を大声で呼ばないで下さいよっ!!

恥ずかしいじゃ無いですか…。

で、やっぱりおじさんも同人誌を買いに来たんですか?」


「ははっ。やしろく~ん。

この年になって、同人誌はめったに買わんよ~。」


『めったにって事は、たまに買うんだ。』


勇人のツッコミが心の中でだが、即座に入る。

そんなツッコミに、マキの父親は気づくはずも無く、勇人の質問に答えた。


「いやあ、古くなってきたコイツを売ろう、思って…。」


マキの親父さんはそう言って、引っ張って来た台車に乗ってるダンボールを、ポンポンと叩いて見せた。


「そのダンボールの中に、何が入ってるんです…?

もしかして同人誌の売り子として来たんですか?。」


「コレ?これはなぁ…。

ウチん所のかみさんが作った、手作りコスプレ服たい。」


そう言うとダンボールの一つを開けて、コスプレ服の一着を見せてくれた。

手作りにしてはしっかり細部まで作りこまれている。

既製品よりも細部に拘りが感じられ一目で、素直に感動出来るレベルだ。


「へぇ…。よく出来てますねぇ…。」


「当たり前ったい。

ウチのかみさんは、元・伝説のコスプレイヤー女王様と言われとってなぁ。

それでカメコのワシと知り合ったとよ。」


勇人は思った、今のマキの行動を見るに、物凄く納得の出来る親子関係だと…。


「おっと、こうしちゃおれん…。

やしろ君、悪いけど出遅れて時間が押しとるとよ~。

ちょっと販売のセッテングだけで良かけん、手伝ってくれんね。」


「ええ、構いませんよ。」


勇人は仕方無しに、マキの父親の手伝いをする事になった。


3時間後…。

そこには古着のコスプレ服の売り子として、働かされる。

勇人の元気な姿があった。


「はいはい、赤いタグの付いてるのは5000円。青いタグは3000円ですよ~。それぞれ各種SMLとありますよ~。

早い者勝ちですよ~。

はい、まいど~。8000円で~す。

はいおつりの2000円…。

…………。」


勇人は、ふと自らの疑問を隠しきれずに自問する。


「……………。

どうしてこうなった…!?

設置だけ手伝うって話しじゃなかったのかよっ!!」


「ご…、ごめんなさい…。

矢城君のお兄さん…。

わ、私のお父さんが…。

む、無理言って…。」


マキが本当に申し訳なさそうな顔で勇人に謝り。

少し目を潤ませている。


「あ~勇人君が、ドナちゃん泣かせた~。

ひっどいんだ~。」


「イヤ、僕はそんなつもりで言った訳じゃなくて…。

今のは自分自身に対するツッコミで…。

たまにあるだろ?

自分自身にツッコミたい時?」


「勇人君、なんかいやらし~。」


悲しいツッコミ職人のサガとして勇人は説明したが。

しまぽんが勇人を軽く非難する。

だが、口調から心から真に軽蔑しての非難で無いのは明らかだ。

場を和ませ、マキを立ち直らせる為の非難だった。

それが分からない勇人でも無いが。

キョウが間だを取り持ち始めた。


「まあまあ、皆さん。

こういうのは楽しんだ者勝ちですよ。

楽しく売り子に徹しましょうよ。

あっ!?ありがとうございます。

青タグ2着ですね。

6000円です。はい、ありがとうございました。」


キョウの柔らかい物腰と優しい笑顔と口調が、客を引き付けて止まない。

その存在は人を和ませた。

そもそもなぜこうなったかと言うと…。


3時間前。

勇人がマキの父親に頼まれ、コスプレ服を売る為の簡易式ハンガー掛けを組み立てていると…。

何故か、キョウが真っ先に反応したのだ。


「あれっ!?カメラマンのおじさんっ!?」


「うんっ?……………。お~~~~~!?

あっ!君か~~~~~!!!え~~~~~…。

あ~~~~~名前は………。

キョウ子ちゃん!

峠坂キョウ子ちゃんやったね。

久しぶりったい、元気やったと?」


「あの…。

キョウ子でなく、京(キョウ)ですけど…。」


「あっ!?そうやったね~スマンスマン。」


どうやら二人は前からの知り合いのようだ。

二人の接点が分からず不思議に思い、勇人はマキの父親に質問してみた。


「おじさん。峠坂さんの事知ってるんですか。」


「ああ、こっちに引っ越しばして来た時に、正月用の着物のモデルを、こん子にしてもらって知り合ったと。

ほらっ彼女。

純和風って感じがしよっとやろ?

可愛いマキをモデルにしても良かばってん。

断られてな~。

それに、どちらかっちゃマキは洋装の方が似合うからなぁ。」


相変わらずの親バカ振りである。


「へ~そうだったんですか。

結構世間って狭いですね。」


冷ややかな目で軽くいなしながら、勇人は世間の狭さをしみじみ感じていると。

ようやくマキも、父親の存在に気づいたようだ。


「あれっ!?お父さん…?

今日来れないんじゃ無かったの?」


「おお、マキ。

なに、早めに仕事ば切り上げてきたったい。

朝飯ば食わんで行って良かった~。

相手さんも早めに来てて、時間マキマキでやって何とか間に合ったばい。」


朝飯という単語を聞いて、勇人はハタとある事を思い出す。


「ヤッベっ!!

お弁当カバンに入れっパだった!!」


勇人が慌ててお弁当を取り出し中身を確認して見ると、やはり会場の熱気と暑さで痛み始めている…。


「あちゃー…やっちゃった。

もったいないけど流石にコレは、食べ無い方が良いよなぁ。」


痛みかけの弁当を見ながら、勇人がそう呟くと、マキの父親がピクリと反応した。


「なにっ!?

そりゃもったいなか…まだイケるっ!!

まだイケるばい。

何だったらワシが貰らってよかね?

朝飯抜いて腹が減って腹が減って。」


「イヤ、何かあったらいけないんで…。

それは出来ませんよ。」


「大丈夫、大丈夫!!

最近のお子さまば何でも気にし過ぎたい。

食に対する、命のありがたみを知らんでいかん。

アフリカのモータイさんもゆっとろう…。

もったいない精神ばい。」


「それって…マータイさんでは…?」


っと…。

勇人はツッコミを入れ、何度も止めたにも関わらず、その弁当を貰いうけ。

すぐさま弁当をたいらげてしまった。

それから1時間たたず。

マキの父親は、下腹部お祭り状態になってしまったのだ。


「ぬふぅゥうほふん…。

うオぅぅぅおふんっ…!

はん…ひゃんっ!?

きぇぇぇぇぇぇぇぇ。」


「これって僕のせいになるのかな…?」


男子トイレから怪鳥のような呻く声を聞き。

勇人が申し訳なさそうに誰に言うでもなく呟くと。


「や、矢城君のお兄さんは悪くありません…。

もったいない精神で体壊す、お父さんがバカなだけです。」


マキが勇人のフォローに回る。

しばらくすると、肩で息を切らせお腹を押さえながら、トイレからマキの父親が出てきた。

そしてマキにとんでもない事を頼みこんできたのだ。


「はあ、はあ……。

ようやく一息ついたばい…。

す、スマンまき…。

お父ちゃん、もう便器からお尻が離れそうになか…。

ばってん、ここまで来てあん服ば売れんのは、我が家の家計の危機…。

このままじゃ今年の夏は、コミケと秋葉原に行けんようなってしまう。

そこで、マキ…。

お前が売り子をやってくれんね…。」


「「「「なっ!?

何だって~~~~~~~!!!」」」


一同一斉に驚愕する。

その頼みにマキは悩んだ。

あがり症で、対人恐怖症気味で…。

どもるクセのあるマキには、あまりにも売り子はハードルが高すぎる。


「み、ミキお姉ちゃんに頼もうよ。

会場にいるからやってくれるよ…。

きっと…。」


予想外のマキの言葉…。

マキにはどうやら姉がいるようだ。

驚愕の真実に思わず、しまぽんがマキに問いただす。


「えっ!?ドナちゃんお姉さんいたの?」


「ミキはワシの年の離れた妹ばい…。

ミキはこのイベントの運営ばってん…。

他にもやる事があるとよマキ。」


しまぽんの問いに答えるマキの父親。

そして意外な真相。

これも家内操業とでも言えるのか…。

どうも、マキの親父さんは、マキに人に馴れさせようと売り子をさせたいようでもある。

それを察したしまぽんがフォローに回る。


「分かりましたおじさん、私達も手伝って売って見せます。

ドナちゃんやってみよ?

ねっ?」


「そうですね。マキさんやりましょう。

私も一度売り子をして見たかったですし。」


キョウの方もやる気になっているようだ。


「僕のお弁当が原因でこうなったんだ…。

僕も手伝うよマキちゃん。」


勇人がそう告げ…。

三人の後押しにマキも答えが固まった。


「………………う、…うん…。

分かったお父ちゃん…。

私、頑張る!!

秋葉原で色々なお店にも行きたいし…。」


「おおっ!?やってくれるかぁ…。

値段は、シャア専用カラーのタグが着いたのが五千円。

ランバラルのグフカラータグが三千円で頼むたい…。」


「うん、分かった。

ギアスで言ったらカレン専用機が五千円。

シンクー専用機が三千円だね…。

任せてお父ちゃん…。」


そう言って二人でニヤリと不気味にほくそ笑んだ。

さっきの会話でお互いしっかり意志疎通をしているようだ。


「オタクはなぜ分かりにくい表現をしたがるんだ!?」


勇人がたまらずツッコミに走る。

かく言う勇人もしっかり分かっていた…。

同時にしまぽんにしては珍しく…。


「って…。

普通に赤色と青色って言えば良いでしょうが~~~~~!!」


たまらず土那高親子にツッコミを入れた。

だが、しまぽんもやはりどんな色かは分かっていた。


その日の夕方…。

勇人が図書館から帰宅すると…。


「あっ!!

ゆう君、おっ帰り~。

カッ君の事は残念だったね。

塾に行ったらさ…。

カッ君がいたからビックリしちゃったよ~。

でっ、今まで何してたのさ?

帰って来て無いから、何かあったんじゃ無いかって、少し心配しちゃったじゃないか…。」


アインが不自然な程、明るく出迎えてきた。


「ど、どうしたんだよアイ君…?

なんか気持ち悪いぞ…。」


「えっ!?そうかな…?普通だけど…。

いつもとそんな、あんまし変わらないよ…。」


そう言うとアインは節目がちに、勇人の顔をまともに見ようとすらしない。

勇人の目から見て、塾で何かあったのは明らかだ。


「分かった…分かったから…。

とりあえず、部屋に行こ。

そこで話しを聞こうか。

俺も報告したい事があるし…。

な、アイン…。」


勇人に促され、二人の自室へと入っていくアイン。

この時。

アインは既にウソをついていた。

イヤ、コレからつくウソの為。

勇人の為に、ウソをつこうとしている。


「塾の中で殺人が起こるっ!?

この2週間以内にっ!?」


「ちょっ!?勇人様…。

声がデカいですっ…。

天美お母様に聞かれてしまいますよっ!?」


アインは思わず勇人の口を手で覆うように諫めた。


「あっスマン。

で、その小野坂イツカってヤツは…。

どうして塾で知り合った子を殺しちまうんだよ?」


「それが皆目さっぱりでして…。

3回程見直してみたのですが…。

何故その子が殺されるのか、本当に分からないのです。」


アインはあえて、自らが小野坂イツカに殺されるという部分を、勇人には隠して話している。

その事実を隠したく、あえて明るく振る舞い道化を演じ。

軽いウソをついたのだ。

大きなウソを覆い隠す為に…。

勇人に心配をかけさせたく無いのが、隠したい理由の第一なのだろう。

だが、心の奥底にそれ以外にも理由はあるようだ。

しかし、アイン自身にそれが何かはまだ分からないでいた。


「殺す理由の分からない犯行か…。

しまったな。

図書館で見つけた子をアインにまかせて、俺が塾の方に行ってりゃ良かった。」


勇人は眉間にシワを寄せ、しかめっ面でしこたま後悔する。


「勇人様…。

もしや勇人様も本日、見つけられたのですか?」


「ああ、俺も見つけたんだよ。

めっちゃカワエエ娘だった。」


勇人は今日あった事と、峠坂キョウの自らが知り得ている事をアインに説明した。

全ての話しを聞いた所で、アインは…。

必要以上に喜んだ。


「なるほど、めでたい事ではありませんか。

コレで見つけた人数は6人。

残りは一人。

私が小野坂様とお友達になれば、小野坂様に殺人を起こさせない事も出来るのですし…。

良かったんですよコレで…。

塾の事で私が苦労する分…。

勇人様にはその女の子の事シッカリ頼みますよ。」


笑っているようには見える。

余裕が有るようにも見える。

だが、どことなく遠くに突き放すようなアインのその物言いに…。

勇人は少しばかり不安を感じずにはいられなかった。


その日の夕食後。

勇人がお風呂から上がると、アインが家族兼用パソコンで、ホームページを幾つも開いて見ていた。


「アイ君お風呂~~。

って…、何のホームページ見てるの?」


「うん…。

少年犯罪について色々調べてみたんだけど…。

調べれば調べる程、分からなくなってきた…。」


アインはそう言うとホームページを閉じ始めパソコンの電源を落とした。

勇人にお風呂だと言われて電源を落としたのか?

それとも…。


「そりゃまあ、そうなるだろな…。

整合性や常識で量れるモノじゃないから…。

アイ君、どんな少年事件を調べてみたのさ?」


「有名所を数件…。

福岡のバスジャック。神戸のS事件

それと長崎のT事件と佐世保のN事件…。

でも…。

それなりに調べたはずなのに…。

分からないとしか分からなかった。

変な感じだよ。」


勇人はそれを聞くと幾ばくか考え。

何かを決意すると、アインに囁くようにお風呂に入るように促した。


「アインいいから風呂に入って来いよ。

風呂から上がったら、俺の知りうる限りの事をお前に説明してやるから。」


「あっ…。

…………はい…。」


アインは小さく呟くように返事を返し、素直にお風呂に入りに行く。

勇人は、アインが風呂に入っていくのを確認すると…。

そそくさとパソコンを立ち上げ、検索履歴と閲覧履歴を確認しだした。


「……………。

アインの言った事にウソは無いようだな…。

女子高生コンクリ事件と佐世保女子高生殺害事件までは調べては無いか…。」


内心ホッとしたが、アインを疑っているようでいて、居心地の悪さを感じてもいた。


「さて…どう説明すれば良いかな。

こういうのは慎重に言葉を選ばないと…。

アインに限って、犯罪者に共感を覚えて犯罪を起こすって事は無いと信じたいが。

こういうのは、心を鍛えてないとな。

犯罪にリアルに足を引っ張られるからな。」


勇人は知っていた。

犯罪を知る事で、犯罪が人を犯罪に誘う事がある事を…。

そして恐れていた。

アインの心が、弱い方へと引っ張っられる事を…。


閲覧履歴上での少年犯罪のホームページを見ながら勇人は、アインへと語る言葉を思考していた。


『福岡バスジャック事件。

これは秋葉原の無差別殺傷K事件と似たような印象を受ける。

二つの事件ともネット絡みのいざこざから、自らを犯罪へと追い込むように駆り立て、袋小路にハマるように殺人へと行き着いたのは同じだ。

だが…。

少年の場合、学校でのイジメによる不登校と…。

それに伴う家庭内暴力を行うようになり、精神病も発症。

その精神病から少年は、豊川市での別の少年犯罪事件に、同じ少年者側として共感を感じてしまった。

少年の境遇や共感性が、犯罪の原因の一因を担っている分。

K事件とは分けて考える必要がある。』


『神戸のS事件…。

この事件は連続殺人という、かなり特殊な事例に見える。

少年の成長過程において…。

体育祭で緊張していた少年は、父親からあるアドバイスを受けた。

「人を野菜だと思えば緊張はしない。」

誰もが普通に送る。

平凡な普通のアドバイスだが、少年においてこのアドバイスが裏目に出る。

純粋過ぎる程純粋に、その意味を捉え解釈してしまった。

同時期に元からある過度な破壊衝動から、子猫を殺害するまでにいたりだし。

その過程において性衝動と破壊衝動が混じり始める。

人への破壊衝動が性衝動と同質な物へとすり替わった事で…。

快楽を感じだし人を殺傷。

そして遺体損壊、隠蔽工作もろもろの凶行。

連続殺人のS事件へと発展した。


S事件の場合は、他者や動物への共感性を全く無くした事件とも取れる。

少年は、性的サディストの素質は元からあったのだろう。

だが、基本的には、父親の少年へのアドバイスは普通に昔からあるアドバイスであるし。

破壊衝動も性衝動も、人に元からある基本的な普通にある感情だ。

その普通を制御をでき、自分で抑えれる成長前に、凶行に走ったと考えれば…。

一歩間違えれば、誰でも起こしうる犯罪とも考えられる。』


『長崎県長崎市のT事件。

T事件は犯人の少年が。

市内アーケードに、家族で来ていた小学校低学年の児童を誘拐。

その児童を立体駐車場から投げ落として殺害した事件。

少年事件としては、分かりやすい犯行動機だ。

簡単に言って、性衝動の欲求と…。

その隠蔽工作の過程による殺害。


自らの性衝動をガマン出来ず。

その性への対象を、たまたま見かけた児童に向ける。

衝動的に、児童誘拐してしまい。

何とかその犯行を隠そうとし、その隠蔽工作に思いついたのが殺害だった。

殺害して隠蔽工作でなく、隠蔽工作をしようとした結果が殺害なのだ。

この違いはデカい。

短絡的な発想と行動。

少年の心が余りにも未熟なゆえの事件…。』


『逆に謎なのは、長崎県佐世保市の小学校内で起きた通称N事件。

同学校内の児童が被害者であり、加害者という特殊な児童犯罪ゆえ。

ある程度の情報の統制は必要なのだろう。

だが、動機や背景すら全く伝わらないのは、児童犯罪において、次を防ぎ予防する術すら奪いかねない。

児童犯罪の情報のあり方を考えさせられる事件。』


勇人がある程度、少年犯罪事件を反証しアインにどう伝えようか決めた所で、アインがお風呂から上がってくる気配がしだした。

慌ててパソコンを消す必要も無いのだろう。

だが、どことなく居心地が悪いのも事実。

パソコンの電源を静かに落とすと…。

無駄に渇いた喉を潤す為、冷蔵庫へと向かう勇人であった。

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