夏のワカレメ

時は流れていた。

勇人とアインには小学5年生の夏休みが目前へと迫っている。


「「「夏休み宿題講習学習塾?」」」


学校内での昼休み中。

ソナタのその提案に、勇人とアインとカナタは、同時に聞き返すのだった。


「うん。

お母さんがさ、塾のチラシとパンフレット貰って来てさ。

みんなも一緒にどうかなって思って…。」


ソナタはそう言いながら、数枚のチラシとパンフレットをカバンの中から取り出してきた。

アインがソナタのその話しに、とりあえず食いついてみた。


「ソッ君。

いったいそれってどんな事するの?」


「えっとね。

夏休みの宿題を塾に持ち寄って…。

お盆前までに全て終わらせるって事みたい。

その際、復習も兼ねた講習もやって…。

各教科の理解度を深めるって内容みたいだよ。」


「ふ~ん、なるほどな。

生徒には宿題が早めに終わって万々歳。

塾としては問題集代が浮いてお得だわな。

ソナタはそれを受けるつもりなのか?」


わずかな説明から、カナタはそう推測した。

カナタの、感というのか先を読む力というのか、そういう物がだいぶ鋭くなってきたようだ。

ソナタは照れ笑いをしながら…。


「うん。

自由研究とか図画工作の宿題も手伝ってくれるみたいなんだ。

僕そういうの苦手だからさ。」


「確かにソッ君が作った鳥の巣箱って、巣箱になって無かったよね。

もう何て言うのか。

巣箱って言うより、鳥が入ったら出られ無い鳥用の罠だったし。」


勇人が、去年の秋の愛鳥週間に、ソナタが作った鳥の巣箱を思い出しながらちゃかした。

ソナタはその事を思い出したのか、暗い顔をしだす。


「うん…そうだったね…。

中に入った鳥が…。

鳥さんが…。

だから今回、貯金箱を作ろうと思う。

で、2週間で授業料は六千円なんだけど、一人じゃ少し不安なんだ。

どう?皆で一緒に行かない?

塾の最終日には、打ち上げで焼き肉パーティーもするみたい何だけど…。」


『『焼き肉っ!?』』


アインとカナタが、その言葉にピクリと反応する。

カナタがまず答えるが、その表情は諦めの表情であった。


「まあ、俺んとこはたぶん無理だ。

てか、絶対無理!!

ウチの父ちゃんが、そんなのに金出してくれねえだろうし…。」


「そっか…。」


言われてみるとそうである。

残念そうな表情を見せたソナタは、次に勇人とアインに期待の眼差しを向け始めた。


「焼き肉か…。焼き肉…。焼き肉な…。」


「アイ君。

どんだけ焼き肉に反応してんだよ。」


勇人の適切なツッコミがアインに入る。

アインはどうやら乗り気だ。

焼き肉という部分に心が動かされたらしい。


「ゆう君、どうしよっ?

僕は行っても良いかなって、思ってるんだけど…。」


「とりあえず、お金の掛かる話しだ。

家に帰って母さんと相談してみないとな。」


「うん。

だったらチラシとパンフレットだけ渡しとくね。」


ソナタはそう言うと、チラシとパンフレットを3人に渡すのだった。

その日の学校の帰り道、ソナタと別れた後で、二人は塾の事を話しあう。


「それで。

どうします勇人様?

もし天美お母様が許可されたら、塾は受けられますか?

むげに断られるのも、ソナタ様に悪い気が致しますが。」


「そうなんだよなぁ。

人付き合いって難しいよな。

しがらみって確実にあるし。

で、もし許可が出たら、アインはどうするんだよ?」


「私(わたくし)は先程も言ったように、通っても良いかと思っていますよ。

焼き肉に。

じゃない!!

塾に…勇人様はどうなさるんです?」


「俺か…。」


勇人は迷っていた。

むしろ内心は隠していたが、少し焦っていた。

先日見た、「ちんすこう」のお土産の夢がどうにも気になっていたのだ。


・なぜ神様はアインに真実を隠し、内密にしたかったのか…?

・そしてアインの悪い変化とは…?


その2つが、奥歯に挟まった焼き肉片がなかなか取れないような。

どうにも居心地の悪い、気になる物になっている。

そして1つだけ確実な確信があった。

早めに、残りの神様が選んだ子供を見つけ、カタをつけた方が良いと…。

そう考えていたので…。

勇人はこの夏休みに、色々な所を探して周りたいと考えていた。


「さて…。

どっちを選べば出会いがあるか。」


「っ!?出会いっ?

ハッ!?

まさか勇人様…。

いけません!!早過ぎますっ。

幾ら心は大人とはいえ、今現在のご自分の実年齢を考えて、慎重に大人の階段を…。」


「誰が大人の階段を登る出会いだっ!!」


スパ~~~~~ン!!


小気味良い程に、良い音を上げたツッコミチョップがアインの頭に入る。


「いった~…。

ち、違うんですか?勇人様…。

一夏の魅惑的な時間が…。

思いもよらぬ大胆な行動を取らせようとしていたのでわ?」


『アインの悪い変化って、馬鹿になりつつある事なんじゃねえのか?』


ツッコミを入れた勇人は、疑惑の眼差しを向けながらそう思えて仕方なかった。

しばし熟考したのち、思い切った決断をする。


「ヨシっ!アインこうしよう。

お前は塾に行ってソナタと宿題をやれ。

俺はカナタと一緒に宿題をやる。

コレなら両方に門も立たないし、穏便に済むだろ。」


「なるほどっ!!

それは名案ですね。

ではそうしましょう。

まずはお母様を説得しないと。」


アインは勇人のその提案に納得したのか。

ウンウン頷き疑問に思わずに賛成した。

勇人には考えがあった。

二人で同じ場所に行くよりかは、別々の場所を行動する事で、件の子供を見つけやすくなると考えたのだ。

勇人のその発想は良かった。

良かったのだが。

その発想は悲しい事に、当たってはいけないのに当たってしまった。


7月夏休み初日。


ラジオ体操も終わり、朝食を食べ終えたアインと勇人は、家を出る所だ。

眠気が残り、あくびをしながら玄関を開けた所で、アインは既に心が折れかかっていた。


「ふぁぁあぁあぁぁ…あっ?

うわっ!?日差しつっよ!!

熱気すっご…。

まだ朝なのに、あっついなぁもう。

失敗したかなぁ…、ゆう君と家で夏休み子供劇場を見て、のんびりしてた方が良かったかも…。」


「心が折れるのが早過ぎるわぁ~~!!」


スパ~~~~~~~~ン!!!


勇人の軽快なツッコミがアインの頭に軽やかに入る。

何故か嬉しそうにアインが抗議してきた。


「そうポンポン朝から殴んないでよ。

ゆう君。

ほんの少し弱音を吐いただけじゃ無いか…。」


「あまりにも早過ぎだ…。

せめてそのセリフは、玄関を一歩出てから言ってくれ。

それで、何時までだったっけ塾は?」


「午前9時から午後2時までだから…。

3時くらいからは、遊べるんじゃないかな?

それじゃお母さん。

行って来ま~~~~~す。」


「じゃあ僕も、カッ君とこに行ってから…。

図書館で宿題して来るから~。」


それを聞いた天美は、台所で洗い物をしながら二人に答えるのだった。


「二人とも~。

お弁当傷み易いから、暑い所には置かないようにね…。

車には気を付けるのよ~~~。」


「「は~~~~~~~い。」」


勇人とアインはそう答えると、自転車で二人別々の方向へと進んで行くのだった。


アインが駅前の駐輪場に自転車を置いて、塾の近くまで来ると…。

そこには思いもよらぬ人物がソナタと共にいた。

この場には居てはおかしい人物。


「あっ!?あいちゃんおはよー。」


「おはよー、アイン。」


「へっ!?カッ君…?

どうしたのこんな所に?

えっ!?もしかして…。」


「うん…何か母ちゃんがさ…。

申し込んでくれたみたいで…。

俺も今朝、聞かされてびっくりした。」


「僕もホントびっくりしたよ…。

あいちゃんが来ると思ってたら、カナタ君が来たんだもん。」


「…て事は、ゆう君は…?。」


一方その頃勇人は、カナタの家の前で…。


「えっ!?カッ君…。

駅前の塾に行ったんですか?」


「そ~なんよ。

てっきり全員、塾に行くもんだとばっかし…。

ゴメンな~。

さぷらいずやったんよ~。

ホントゴメンなぁ~。」


一人だけ、のけモンになっていた…。


「そうですか…。じゃあ、失礼します。」


勇人は仕方なく、ペコリと頭を下げてカナタの家を後にしたが、内心、助かっていた。


『よしっ!!

コレで気兼ねなく探索し易くなった。

とりあえず、他校の子供が集まりそうな所を行ってみるか。

まずは、やっぱり市立図書館だな。』


勇人には考えがあった。


『もしかすると他校の生徒にも、神様が選んだ子供が居るのではないか?』


勇人はその可能性を、前々から感じてはいた。

だが、積極的に自分から捜そうとまでは、考えてはいなかった。

そうであったとしても、あくまでも向こうからやって来るだろうと、受け身な考え方であった。

その考え方を変えたのは、やはり件の夢を見た為であろう。


勇人も、アインと同様に変わってきているのだ。

なんとしても守りたいと思えるモノが、出来てきたゆえに…。


一方その頃、アイン達は…。


「まあ、ゆう君には悪いけど、行き違いとか、こういう事って、たまにあるよね。

ははっ…。」


「そ、そうだよなぁ…。ははっ…。」


「サプライズじゃしょうが無いよねぇ…。」


なんとも言え無い、微妙な笑顔で愛想笑いをするアイン達だった。


アイン達3人が、塾の中の5年生用のクラスに入ると…。

またしてもそこに、学校で見慣れたあの人物がケータイをいじっていた…。

それにアインが気づき、驚きと同時にソナタは喜びの声を上げる。


「あれっ?山田さんっ!?」


「えっ!?あっホントだっ!!」


「あっ!矢城君っ!

っと、その他…。

アナタ達もこの塾に参加したの?」


「そ、その他…。」


ソナタは軽いショックを受けているが、山田が居る喜びの方が上のようで…。

すぐに立ち直り、片手をあげ山田 華に挨拶をしだした。

ソナタも精神的なタフさを身につけてきたようだ。


「や、やぁ。

山田さんもこの宿題塾に参加するなんて…。

き、奇遇ですねぇ。」


棒読みだが、突然の事だったので、ソナタにはこれが手一杯なのだろう。


「私は元から、この塾に通ってたから流れでね。

一緒に頑張りましょ、高松君。」


山田にそう、社交辞令用の笑顔で返されたソナタは、冷静を装いながらも内心は大喜びだ。

山田 華がフとある事に気づいて、アインに質問してくる。


「あらっ?

バカ勇人がいないみたいだけど、どうしたの?

夏風邪でも引いたのかしら?

バカだから。」


「ゆう君はその…。

色々と手違いがあってさ…。

この塾には来てないんだ。」


「そうなの?

ま、静かになって助かるけど…。

オプションが、居なきゃ居ないで変に違和感を感じるわね。」


山田 華と、そうやりとりをしている時である。

アインは視界の端に、違和感のある男の子の存在を見つけてしまった。


『あれっ!?

この感覚…。この違和感っ!?

もしかして!?』


その子は、背格好はアインと同じ位。

中性的な顔立ちで、パッと見男の子か女の子かホントに分からない。

服装が黒のゆるゆるタンクトップに半ズボンで…。

胸元がガッツリ見えていても全く気にもしていない所から、ようやく男の子か?、と疑問符で分かった。

将来はかなりのイケメンになりそうな、均整のとれた顔立ちの男の子だ。


大概の他の塾生達は、それぞれ仲の良い子と会話なり遊ぶなりしている中、塾の中に誰一人知り合いが居ないのか、塾の教室の長机が並ぶ後ろの角の角で、一人週刊マンガ雑誌を読んでいた。

どことなく、冷たそうな、つまらなそうな、悲しい寂しい雰囲気を漂わせている。


「どうしたんだ?アイン?

あの後ろにいるヤツと、知りあいなのか?」


アインがその男の子を見ているのを、カナタは気づいたようだ。


「イヤ、そうじゃないんだけど…。

なんだかあの子が一人で寂しそうだなって思って…。」


「じゃあ、あいつの隣りに座ろうぜ。」


カナタはそう、簡単なようで簡単でないちょっとカッコイいセリフを、あっさりと言ってのける。

そんなカナタを見てアインは…。


『あっ、カッコイい。

それにこの雰囲気。』


カナタの心の奥底に、海心(かいしん)父さんの雰囲気がある事に気づいた。

カナタは海心のようになろうと、変わろうとしているようにアインには見えた。


「お~いソナタ…。一番後ろに座ろ。」


カナタがそうソナタに言いかけ、振り向いてみると…。

ソナタは既に山田の隣りにちゃっかりと座っていた。

山田は気にも止めていないようだが。

ソナタは一目見ただけで、ご満悦な様子で幸せそうなのが端から見て伝わってくる。


「ソッ君はあのままで、そっとしといた方が良さそうだね。」


「だな。

ソナタの為にも俺達は後ろに行こか。」


二人はソナタに気を利かせる為にも、件の男の子の席へと行くのだった。


「やあ、おはよう。

隣り空いてるかな?」


まずはアインがそう話しかけてみた。

とにもかくにも、人と知り合い仲良くなるにはまずは挨拶から。

アインは明るく挨拶し、そう聞いてみた。

その男の子は週刊マンガ雑誌から視線を外し、アインを一目だけチラリと見てぶっきらぼうに返答する。


「さあね。

空いてるんじゃない?

知らんけどさ。」


綺麗な声だ。

清んだ通るその声はやはり男の子なのに、その容姿と合わさると、やはり女の子のように見える。

どこか人を寄せ付けない冷たい雰囲気だ。

性格だろうか?

アインは気にせずに隣りに座り、カナタはそのアインの横に座る。

着席すると同時に自己紹介をしてみた。


自らを知ってもらい、相手に警戒感をなくしてもらう…。

自己紹介もまた、人と仲良くなる為、友達となる手段だとアインは学んでいた。


「僕の名前は矢城アイン。

春日小の5年。

こっちは岩倉カナタ君、僕のクラスメートで友達。」


「岩倉カナタだ。よろしく。」


「……………………。」


握手もまた親しみを得る手段。

カナタはその男の子に握手を求めた。

求めてみたのだが。


「……………………。」


チラリと一瞥されたがガン無視されてしまった。


「……。」


カナタは気にせず、仕方なしに手を引っ込める。

アインとカナタが自己紹介を終え、しばし経つが。

なかなか相手の自己紹介が始まらない。

変な間が開き妙な空気が二人に漂う。


「えっと…。

君の名前は…?」


アインが我慢出来ず、件の男の子に名前を聞いてみた。するとその男の子は…。


「君達が自己紹介したのは、そっちが勝手にした事だろ?

僕が返答する義理は無いはずだ。

違うかい?」


「えっ…!?

いや、まあ、それはそうかもしれないけど…。」


アインはそう言いかけると口ごもってしまう。

人としてのマナーの問題であるのだが…。

その男の子にそう言った所で、答えてくれるはずも無く。

アインはいきなり、知り合いにすらなれない、詰んだ状況になってしまった。


思わず悲しげな表情になるアインだが、それをまたチラリと見て、その男の子は仕方ない体でため息を一つつく。

そして、面倒くさそうに自己紹介をし始めた。


「鈴野宮小学校の小野坂(おのさか)イツカ…。

初めに言っとくけどさ。

俺の側に来て、どう言われても知らないからな。」


自己紹介までは分かった。

だが、その後に続けて言ったセリフの意味は、アインとカナタには分からなかった。

おそらくアイン達に注意や警告の為に言っているのだろうが。

塾の中で、誰に気がねしてるのだろうか?


そうこうしていると、塾の授業時間が始まった。


基本夏休みの宿題は、学校事に出される宿題の量やプリントは違っくる。

だが大まかな教科事の宿題範囲は、1学期に学んでいる事の復習がメインであり。

学習範囲も大まかに似たり寄ったりで、学習内容の差はこの地域の学校ではそれほど無かった。


その夏休みの宿題の範囲内で、学力テストにおいて重要度の高い所を数個ピックアップし、それぞれの学校事の宿題の問題で塾の講師が解説していく。


その解説が終わると、基本、塾生達が自主的に夏休みの宿題を進めていく。

分からない所があった時は、塾の講師に質問し個別に習う。

これが今回の夏休み宿題学習塾の流れとなっていた。


休み時間になると、小野坂イツカは誰とも話す事もなく。

又も週刊マンガ雑誌ジャンプを広げ、時間を潰しだしていた。

同じ学校の生徒がいないという訳では無いが。

小野坂イツカに誰かが話しかけて来る事もなく、一人で過ごしている。


そんな小野坂イツカの隣りに座っている、アインだったが。

その休み時間を利用して、小野坂イツカの未来で起こす犯罪を見る事にした。


『勇人様には悪いけど。

先に、前調べをしといても問題無いですよね。』


それは今までの、ソナタやカナタ達の時とあまり変わらない、アインには何気ない行為だった。


だが今回は……………………。


アインは、いつも通り目を瞑り意識を集中し、未来の光景を見始めると不思議な事が起き始めた。


目を瞑っているはずなのに、今いる塾の教室内が見え始めたのだ…。


『えっ…!?コレって…。

ここの塾内ですよね…。

そんな…まさか…っ!?』


人気の無い塾の教室内。

生徒は既に帰っているようだ。

そんな中で二人の生徒がいる。


『あれは…!?わたくし…っ!?』


自らが客観的に目の前にいた。

そしてもう一人の生徒は小野坂イツカ。

手には大きめの工作用カッターナイフを持っていた。


『まさか…!?この状況はっ…!?』


アインが驚愕の事実に気付き。

その身を震わせ始めると、アインの予想通りの光景が目の前で起こり始める。

涙目で苦悶の表情の小野坂イツカは…。


「…ゴメンね…。」


そう一言呟くと…。

手にしていた工作用カッターナイフで…。


…ヒュッ…


風を凪ぐ音を奏でた。

そんな時…。


「おいっ。アインっ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?!」


「うわっ!ビックリした…!

悪い驚かせた…。

居眠りでもしてたか?

授業始まるぞアイン…。」


カナタだった。

アインが未来を見ている姿を、居眠りしてると勘違いしたようだ。


「しっかし…酷い寝汗だな?

大丈夫かアイン?顔色悪いぞ。

怖い夢でも見たのか?」


「ゴメン…大丈夫だからカッ君…。

ありがとう。」


冷や汗がエアコンの冷房と相まって、アインの心身を奥底から凍えさせ震わせた。

動揺しているが、なんとか平静を装おうとする。

だが、なかなか思い通りに行かない。

 

それもそのはず、アインは、つい先程まで自らが殺される光景に、体を硬直させ、ただただ呆然と、自らが死ぬ未来を目の当たりにしてしまったのだ。


脈は早まり、汗はなかなか止まらない。

ようやく平静を取り戻し始めた時には、授業も既に残り5分となった所だった。

アインは横目でチラリと小野坂イツカを見ると、心の中で反証する。


『この2週間の内に、この塾の中で私は殺される。

これが勇人様の言っていた。速攻で対処しなければならない事案というモノか…。

しかしいったい。

いったいなぜ、私が彼に殺される事に…?』


アインはその日…。

それ以降…。

小野坂イツカに話しかける事が出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る